Googleが印刷屋のライバルになる日


Googleといえば、インターネットの検索サイト。何か知りたいこと、調
べたいことがあるときに、それに関するキーワードを打ち込めば、関係
のありそうなサイトを一覧で示してくれる。日本では調べ物をするとき
にはyahooを使う人も多いようだが、アメリカではGoogleユーザーの方
が多い。


それにしても検索サイトはインターネットの話だ。いわばバーチャルワー
ルドにあるGoogleがなぜ、印刷物という実態のあるモノを作っている印
刷屋のライバルになるのか。


アメリカでは、メディア視聴・購読時間の15%がネットを見ることに費
やされているそうだ(日経新聞2005/6/11より)。つまりネット上のサ
イトは、メディアとしてのポジションを完全に確立している。そしてあ
らゆるメディアは、広告媒体となり得る。


そこでGoogleの出番となる。


Googleは検索サイトである。ということはGoogleにアクセスして、キー
ワードを打ち込む人は、基本的にそのキーワードに関心を持っている。
たとえば「純米吟醸酒」を打ち込んだ人がいるとしよう。この人がなぜ、
このキーワードを選んだのか、その理由はわからない。


純米吟醸酒って何だろうと素朴な疑問をもったのかもしれない、どんな
純米吟醸酒がいいのかを調べているのかもしれない。もちろん純米吟醸
酒を買いたい人である可能性だってある。ただし、少なくともみんな純
吟醸酒に何かの関心を持っている人だという点では共通している。


ここに純米吟醸酒の広告を出せばどうなるか。


新聞広告やテレビCM、あるいはDMなどで純米吟醸酒をアピールするの
と、何が違ってくるか。新聞広告、テレビCMは無差別広告である。DM
にしてもリストの精度により、純米吟醸酒に関心ある人だけにDMが届く
とは限らない。Googleなら、純米吟醸酒に関心を持っている人に広告が
届く率が格段に高くなる。


さらにコストの問題がある。新聞広告、チラシ、DM、いずれも最低で百
万近くかかる。最高なら何千万から億単位になることだってある。とこ
ろがGoogleに広告を出す場合は、アメリカの例なら広告を見た人一人あ
たりわずか0.45ドルに過ぎない。ちなみにこれは平均的なDMコストの5%
だ(前掲・日経新聞記事より)。


DMなら関心を持たない人を含めて、一人あたり9ドルのコスト
Googleなら関心を持つ人に対して、一人あたり0.45ドルのコスト


コストパフォーマンスの差は圧倒的だ。しかもGoogle広告にはDMではほ
ぼ対応不可能なメリットがある。それは広告内容を極めて短期間に変え
ていけることだ。極端な話、毎日、異なるメッセージを発信し、その結
果をリアルタイムに検証することができる。スポンサーが、どちらに価
値を感じるかは、改めて説明するまでもない。


もちろん印刷物とネットの違いはあるだろう。たとえば写真の美しさや
デザイン的な表現力などだ。しかし、いずれネットでは動画が当たり前
の時代がくる。となると印刷物とネットの優劣は一挙に逆転するだろう。


アメリカのメディア別広告支出額は、ダイレクトメールがトップで約6兆
円弱。この市場を急激に食い始めているのがGoogle、すなわち印刷屋に
とって脅威的な競合となっているのである。


もとより日本とアメリカではダイレクトメールの普及率が違う。検索サ
イトとしてGoogleを使っている人とyahooに頼る人の割合も異なるだろ
う。だから日本の印刷業界にとってもGoogleが恐るべき競合になると単
純に考える必要はないのかもしれない。


しかし、今や小学生でも何か買い物をする時にはネットで調べる時代に
なっている。この現象が何を意味するのか。ネットを使うユーザーのリ
テラシーが格段に上がってきているわけだ。これはパラダイムシフトで
ある。しかも、今後、この傾向はさらに進む。たとえば3年後、5年後
のネット普及率、一家庭あたりパソコン所有率を想像してみれば、どん
な状況になっているかをイメージできるだろう。


ポイントはここ、ユーザーのネットリテラシーが上がってきているのだ。
3,4年前のように「ネットって便利らしいけど、どうもうまく使いこなせ
ないんだよね」なんてユーザー層が減ってきているのだ。


逆に何をするにしても、まずネットで調べてから、というユーザーがも
のすごく増えている。


情報提供サイドであるサイトクリエイターも、どんな構成、ナビゲーショ
ン、見せ方にすればわかりやすいサイトになるのかが、ノウハウとして
蓄積してきている。


となると、印刷物の多くが、本当にネットに取って代わられる可能性が
ある。もちろんネットが取って代わるのは、印刷物だけにとどまらない
だろう。


大切なのは、自社が提供している価値の見極めだ。いま、提供している
価値が、ネットに置き換わることはないか。ここを真剣に考えなければ
ならない時代が、目の前まで迫ってきている。




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