大戸屋の選択とターゲットニーズ


炭火で焼きたてのサバと、レンジでチンしたサバ。


どちらがうまいか、なんて聞くまでもない。おそらく齢45の私と同世
代の方ならほぼ全員が同じ意見になるだろう。しかしいわゆるF1、あ
るいはM1と呼ばれる世代の人たちはどうか。


一昨日の日経MJにあった記事だが、定食チェーンの大戸屋は、効率よ
りもおふくろの味をめざすそうだ。できたての味で差別化を図る戦略で
ある。これってどうよという話。


そもそも外食チェーンが材料そのもので差別化を図るのは、はなから無
理な相談らしい。たとえばサバなら、日本の外食産業で使う分の8割が
ノルウェー産だそうだ(全然,知らなかったけど、これって大変なこと
じゃないのか、実は。他の食材はどうなっておるのか)。これを呉越同
舟、競合との共同仕入れでコストを抑えている。要するに素材はどこも
同じってことだ。


違いを出したいなら加工から調理までのどこかでしかない。となると一
つは味付けだろう。そしてもう一つが出来立て感というわけだ。


工場で焼いてパック詰めし、店で注文が入った時点でチンして出すのが
一般的な外食チェーン。これに対して大戸屋は、切り身を冷凍して店に
運び、時間をかけて解凍したうえで注文を受けてから炭焼きグリルで焼
いて出す。


焼きたて、ほくほくのサバがレンジであっためたパサパサのサバよりう
まいのは当たり前だと思う。少なくとも我々以上の世代にとっては。


が、ここに落とし穴はないか?


誰に、どんな価値を。ビジネスモデルの組み立てはここからスタートす
る。大戸屋に当てはめるなら、舌の肥えた消費者に、本物に近い味(あ
るいはおふくろの味)をとなるのだろう。これが競合と際立った差異化
を図れていれば、つまり独自のポジショニングを取れていれば、そのビ
ジネスモデルには優位性がある。その価値をどれぐらいの対価で提供で
きるかによって、ビジネスの成否が決まる。


大戸屋のケースで何よりも気になるのは、ターゲットの設定だ。舌の肥
えた消費者って、一体誰のこと? こうした外食チェーンのボリューム
ユーザーである20〜30代のことか。もしそうなら、彼らが味覚にう
るさいとは到底思えない。その理由は、彼らのこれまでの食生活にある。


彼らの親の世代は、共働き第一世代でもある。そして今から2、30年
前から家庭に加工食品や冷凍食品が大量に浸透し始めた。だから彼らが
生まれたときからこれまでに食べたもののおそらく半分ぐらいは、加工・
冷凍食品じゃないのか。


逆にいえば炭火焼のサバなど食べたことない人の方が多いぐらいではな
いか。であれば、こと焼きサバに関しては、わざわざ手間をかけて食べ
る前に炭火焼グリルで焼こうが、加工パックをあたためて出そうが、彼
等にとっては同じこと。本来感じるべき味の違いなどわからない可能性
が高い。


大戸屋では大根おろしもパックを使わずに、いずれは店ですり下ろす計
画があるらしいが、そんなフレッシュな辛みは若い世代にはマイナスの
評価さえ受けかねない。「なに〜、このおろし、辛すぎ〜」みたいなね。


さらに時間軸で考えることも重要なポイントだ。5年後を想像しててみ
よう。いまの10代後半の世代がボリュームユーザーとなってきた時、
どんな状況になるか。ウソみたいな話だが「魚って、パックされた切り
身の状態で海の中にあるんじゃないの」なんて、言い出す子もいるのだ。
魚のことをろくろく知らない子どもたちが、そもそも焼きサバなんて食
べるのかね。


そんな将来マーケットに対して、炭火焼グリルを始めとする設備投資が
正しいのかどうか。


もちろん、これはあくまでも試論であり、実は大戸屋のターゲットはこ
れから大量にリタイアし、夫婦二人での生活を再スタートさせる(=か
なり外食ニースが高まる)団塊の世代なのかもしれない。もし、そうな
大戸屋の戦略は正しいだろう。


大戸屋の戦略、その成否がはっきりするのは、5年後である。





昨日の稽古:

 愛媛出張のため、お休み

変わる家族 変わる食卓―真実に破壊されるマーケティング常識

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