高級外車タクシーはリピーターを掴めるか


制服代に555万円


厳密にはもっとかかっているのかもしれないが一着15万円で最低37
人分とした場合の計算だ。これほど高級なイギリス製の生地を使ったオ
ーダーメイドスーツを制服にしているタクシー会社がある(日経MJ9月
12日)。


しかも使う車はメルセデスEクラスやセドリックばかり。とくれば、さ
ぞや高い料金を取るのだろうと思うでしょ。ところがどっこい運賃は初
乗り540円に抑えているのだ。大阪ではお約束の5000円超5割引
もある。


この高級タクシーを始めたのは、大阪の摂津倉庫である。同社は物流・
倉庫業が専門だ。が、あえてタクシー業界に新規参入した。しかも価格
競争の厳しさでは、日本で一二を争う激戦地・大阪で。


記事によれば、関西のタクシーは価格競争にされされているために、サ
ービス向上に取り組む余裕がない。だから客の立場でタクシー事業をや
れば勝算あり、ということらしい。


流し営業はやらない。ただし夜中でも電話一本で駆けつける。運転手に
は接客教育を徹底し、社内研修も整備する。


なるほど、理屈は通っているようなのだが、さて。


自分が投資家だったら(ってありえねえ仮説かもしれないけれど)、こ
の会社に投資するだろうか。早い話が、このタクシー事業は採算が取れ
ると判断するだろうか。


同社のホームページを見ると、料金体系は大阪都市部の一般的な水準よ
りも安い。
http://www.sat-taxi.com/


割とタクシーにはよく乗る方なので、運転手さんによく聞くことがある。
「おっちゃん、いまタクシーの運転手さんて、どれぐらい稼げるん?」
と。返ってくるのは「手取り20万なんて絶対あらへんわ。わしらは年
金もろてるさかいにやってられるけど、若い奴はあかんのちゃうか」み
たいな答えが多い。


何がいいたいのかというと、運転手さんの質の話である。摂津倉庫がど
んな人材を採用しているのかはわからない。が、このビジネス単体で収
益をあげるためには、人件費を抑えなければならないはずだ。


もちろん車を運転するのが大好き、しかも高級だったら喜んで運転しま
すなんて人は探せばいるだろう。さらにそんな人たちの中で「ぼく、接
客するのめっちゃ好きなんです」という人も数は限られているがいるに
違いない。


しかし「だから、お給料なんて20万もいらないんです」とまでいえる
奇特な人がどれぐらいいるんだろうか。


価格競争に明け暮れて、ひたすら消耗合戦に陥っているタクシー業界で、
土俵を価値競争にシフトさせる戦略は正しいと思う。しかし、従来より
も高い価値を提供するのであれば、それに見合った対価を設定すべきだ
と思う。


でなければ、いずれ運転手の質の低下→サービスの質の低下におちいる
か、あるいは事業としての採算が取れないかのどちらかに終わる恐れが
あるだろう。




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