認知的節約は危険


犬が急に吠えだした。カラスが妙に夜鳴きした。


これらはいずれも地震の前触れだとされる。いわゆる宏観現象だが、本
当に当たっているのかどうかをどう判断すればいいのか。科学的に考え
るならば、その地域に犬やカラスがどれだけいて、そのうちの何割が異
常なことをしたかを見なければならない(日経9月18日号・中外時評
より)。


クリティカルシンキングでも、よくいわれることだが、異常な行動は目
立つ。目立つから頻度も多いように誤解してしまいがちだ。実際にはた
くさんいる犬の中の数匹がやたら吠えただけかもしれない。それでも吠
え方がうるさければ、周りの人には耳に残るだろう。ここで大切なのは、
冷静に判断することだ。


人には認知的な節約をする傾向があるらしい。要するに大量のデータを
一々調べて比べるより、ごく少数の目立つデータで結論を導いてしまう。
しかも自分に都合のよいように解釈しがちだ。


占いの自己成就なども同じ傾向から導かれるのだろう。たとえば朝のテ
レビで今日の運勢などを見ると、どうしてもそこで語られていたことが
記憶に残る。すると一日の行動を振り返ってみるときには、その記憶に
関係のある出来事がやはり印象に残りやすい。それで「やっぱり、占い
ってあたるのね」となる。


が、こうした思考パターンに慣れてしまうと、自分で疑問を持つことが
なくなりがちだ。そして誰か、自分にとって都合のいいことをいってく
れる人の言葉をつい信じてしまうようになる。


宗教にハマりやすいのは、こうした人だ。逆にいえば、人間のこうした
心理を応用すれば、多くの人を騙すことができる。たとえば、前にも紹
介した保険のキャッチコピーなどは、これに似ているのかもしれない。
あるいは「改革を止めない」なんてスローガンも。


思考を節約すると楽だけど、しっかり考えるクセをつけた方が、だまさ
れないし、もしかしたら得する可能性も大きいんじゃないだろうか。




本日の稽古:

クリティカル進化(シンカー)論―「OL進化論」で学ぶ思考の技法

クリティカル進化(シンカー)論―「OL進化論」で学ぶ思考の技法