『的中の酒 三連単』は売れるか


『的中の酒 三連単』。


創業250年の老舗が出した新酒のネーミングである。これを考えたの
電通競馬ファンなら誰もが狙う三連単に「勝負のシーンで飲む酒」
という思いを込めたらしい(日経MJ9月16日号より)。


ネーミングの妙が受けて、東京競馬場周辺の飲食店への納入が決まって
いるそうだ。が、果たしてこの酒、競馬ファンに受けるだろうか。


単純に考えれば、売れないと思う。


競馬ファンは酒好きが多い。一世代前の「いわゆる」イメージではある
が、確率的に見れば今でもはずれとまではいえないだろう。問題は彼ら
が、いつ酒を飲むかにある。馬券を買う前か、買った後か。


推測に過ぎないが、買う前から飲む人は少数派だと思う。なぜなら飲む
と読みがあいまいになる危険性があるからだ。真剣な競馬ファンほど、
つまり、この酒がターゲットと狙っている人たちほど、とりあえず一通
り馬券を買うまでは飲まないのではないか。


とすれば、酒を飲むのは馬券を買った後。つまり、少なくとも何レース
かが過ぎてからである。そこで問題となるのがネーミングだ。勝ってい
る人はいいだろう。仮に「三連単」的中とまではいかなくとも、とりあ
えず当たっているのだから、気分はいい。このネーミングがフィットす
る。


しかし、はずれ組はどうだろうか。


次こそ当たってほしいと思うから『三連単 的中の酒』を買うか。自分
は外れているのだから「なんちゅう、腹立つネーミングやねん」と逆ギ
レするか。


どちらが正しいかはわからないが、このネーミングがリスクを抱えてい
ることは間違いない。そして、もう一つ確実なことは、競馬場に来るお
客さんの大多数が基本的には負け組となって帰っていくことだ。これは
否定しようのない事実である。


競馬場まわりの飲食店に客が立ち寄るのは、基本的には帰る道すがらだ。
と考えるなら、負けたお客様を刺激するのではなく、元気にさせるよう
なネーミングの方がよかったんじゃないのかなあ。


ともかくネーミングの善し悪しはおいておくとして、同社が進めようと
している日本酒マーケティングは、いずれ当たる時が来ると思う。


日本酒業界ほどメーカー志向が支配的な業界も今どき珍しい。だから業
界全体が著しく売上を落としている。そんな状況だからこそマーケティ
ング力に長けている一群のメーカーは、逆に着実に伸びている。


「うちは頑固一徹。先祖代々のいい酒を造ってんだよ。味がわからない
人たちに飲んでもらう必要なんかねえ」なんて造り酒屋の多くが淘汰さ
れている。中には本当に素晴らしい酒を作っているところもある。4P
でいえば、プロダクトは問題ないわけだ。が、価格、プロモーション、
流通に問題を抱えているケースが多い。だから、売れない。


一方で大メーカーも、日本酒ではない「酒」作りに精を出し、挙句の果
てには「米だけの酒」なんてわけのわからないパック酒を出している。
何ですか「米だけの酒」とは。わざわざ、そんな断りを付けるというこ
とは、これまで「米だけ」じゃない酒をたくさん造ってきたってわけで
すか。と、突っ込みたくなるよね。これは価格や流通面では問題なくと
も、そもそもの商品やプロモーションに問題大ありというところか。


日本酒が超・成熟マーケットであることは誰にも否定できない。今後、
大幅な伸びが期待できるわけでもない。が、だからこそゲリラ戦を挑め
ば、いくらでも可能性があるマーケットだと思う。


それにしても『米だけの酒」ねえ。語るに落ちるとは、まさにこういう
ことをいうのでしょうね。


本日の稽古: