ロッキン・オンはなぜ成功したのか


ロッキングオン 2015年 10 月号 [雑誌]

ロッキングオン 2015年 10 月号 [雑誌]


創刊1972年。


すでに企業寿命30年説を超えているのが『ロッキン・オン』。初めて
この雑誌を読んだのは、たぶん30年ぐらい前だ。いっぱしのロック少
年(&恥ずかしの文学青年でもあったな)だった私としては、こんな音
楽雑誌があったんだとぶっ飛んだ記憶がある。


何しろ当時のロック系音楽雑誌といえば『ミュージックライフ』『音楽
専科(だったかな、記憶が定かでない)』の2誌だけ。どちらも写真こ
そたくさんあるものの、記事の中身はすかすか。というか提灯記事ばか
りだった。


そんな中で『ロッキン・オン』は超・異色の存在だった。何しろネタこ
そミュージシャンや、そのアルバムなんだけど、原稿の中身はほとんど
エッセイというか評論というか。高校生だった自分が的確に理解できて
いたとは思えないが、「これ、なに?」的な衝撃は強かった。


確か初めて読んだ号のトップ記事はレッド・ツェッペリン『プレゼン
ス』を取り上げていた。なんだけども「まだ音源は聞いていない。でも
ジミーペイジなら、きっとこんな音になってるはずだ」なんて文章だっ
た。新譜の音を聞かずに、新譜を評論する。なかなかすごいと思いませ
んか。これは渋谷陽一氏が書いていたと記憶する。


しかも次号の発行予告が書いてあって、その頃になると期待して本屋さ
んに行くんだけど、いつまでたっても入ってこない。いい加減、忘れた
頃に発刊、みたいな実にアバウトな雑誌でもあった。それが今や売上に
して34億の企業に育っている。ちなみに利益率は8%もある。


なぜ『ロッキング・オン』は成功したのか。本物のロック評論という提
供価値が認められたからだろう。しかも、ある時期からはロック評論自
体にエンターテイメント性を持たせるような方向転換もあった。評論自
体がおもしろいのだ。


そんなおもしろい評論がどうやって生み出されていたかと言えば、投稿
である。そして優秀な投稿者をスタッフとして引っ張り上げていく。も
ちろんネットもパソコン通信もない時代のことだから、このシステムが
有効に機能したのだろう。


さらには創業者・渋谷陽一氏が、自分の年齢やそれとともに移り変わっ
ていく興味に合わせて新しい雑誌を発行していき、それがさらに新しい
読者層を開拓していってもいる。『ロッキング・オン』自体の編集長を
次の世代に譲ってきたことも、若い読者から支持を得続けている理由だ
ろう。


モデル的には、入門編(というか若い世代向け)として『ロッキング・
オン』があり、映画ファンやちょっと上の世代向けに『カット』があり、
さらに総合誌『サイト』がある。うまくすみ分けができている。


それでいて、それぞれの編集方針は渋谷氏のラジカリズムを外さない。
これがコア・コンピタンスなんだと思う。最近は『サイト」しか読んで
いないけど、相変わらずクォリティは高い。本物の価値があれば、ビジ
ネスは成功する。この真理を具現化しているのがロッキング・オンなん
だと思う。




本日の稽古: