よい日本酒を売るためには


年間80万キロリットル


2004年の日本酒の生産量である。96年はまだ120万キロリットルあったのが、絵に描いたような右肩下がり、毎年ほぼ10%前後の前年ダウンを続けてきた。いまや完全な構造不況業種ともいえるこの業界で、あえて蔵元を買収して商品を販売する新会社が設立された(日経MJ2月6日)。


新会社のバックとなるのは、人材派遣のスタッフサービスグループ。新会社は同グループの事業多角化の一貫となる。これは、もしかすると当たるのではないか。


昨年まで知人が経営する酒造会社の販促を手伝っていた。その知人から聞いていたのは、飲食店ルートでの日本酒離れがひどいこと。飲みにくるお客さんの中で日本酒を頼む人の割合が、どんどん減っている。代わりに増えているのが焼酎だそうだ。なぜ、そんなことになってしまったのか。


焼酎ブームのあおりを受けているのは間違いない。しかし日本酒そのものがまずいのか。


確かに日本酒もどきの酒にはひどいものがたくさんある。あえて名前は挙げないが、いわゆる大手メーカーの「日本」酒である。そしてとても残念なことに、日本酒業界で広告を打てるだけの資本力を持っているのは、こうした大手メーカーだけである。


すると、どうなるか。当然、たいていの人にとっては日本酒=大手メーカーの「日本」酒となる。大手メーカーの酒がいかにひどいかについては、以前にも書いたので、そちらを読んでいただきたいが、要するに日本酒なんてうまくない、というかはっきりいってまずい。そんな共通認識ができてしまっているのではないか。これは大手メーカーの責任だと思う。
http://d.hatena.ne.jp/atutake/20050921/


では、日本酒には本当にまずい酒しかないのか。


そんなことは決してない。きちんと造られたうまい酒はいくらでもあるのだ。ただ、そんな酒の存在はあまり知られていないし、仮に名前ぐらいがどこかのメディアで出たとしても、どこで買えばいいかわからない、というのが実情だろう。ネットで探せばわからないことはないのだが、日本酒にそれほど馴染みのない人にとっては、味見もせずに買うのはちょっとリスクである。


いい日本酒の存在は、なぜかくも知られていないのか。


前回のエントリーでも少し触れたように、中小の造り酒屋には致命的な弱点があるからだ。要するに、彼らにはマーケティングで必要な4Pのうち、特にプロモーションと流通についての戦略的展開が欠けている。欠けているというよりも、マーケティングなんてはなから考えたこともないというのが真相だろう。ついでにいえば価格についても、戦略的に考えているとはあまり思えない。原価の積み上げや、ただ慣習で決まっているケースがほとんどだろう。


そもそも地域の造り酒屋が造る日本酒は、地元だけで流通することを前提としてきた。地場の酒として、その地域の人が飲んでくれれば、それで商いは基本的に成り立っていたのだ。そんな状況の中ではマーケティングなんて考えなくて当然だと思う。例外的にマーケティングをしっかり考えて成功したのが「上善如水」だろう。


もちろん、いまでもきちんといい酒を作っている蔵はある。ただ、そうした蔵には、自らマーケティングをやっていくだけの余力がない。そして地元だけでは、もはや造った酒を売り切ることができない。地元の人たちにとっての選択肢がかつてとは比べ物にならないほど増えているからだ。だからそうした造り酒屋が今でも細々と事業を続けていられるのは、酒が好きで本当にいい酒のわかる小売店が、全国の酒蔵をたずね歩いて仕入れるようになったことが大きいと思う。実際、地酒を専門的に、ほとんど趣味的に扱っている小売店はぽつぽつとではあるがあって、そうしてところは実にユニークな品揃えをしているところが多い。


といった状況の中で、きちんとした日本酒の販売を専門に手がけようというのが、スタッフサービスの狙いである。地場での消費だけではなく、最初から全国展開を念頭に考えれば、まずプライシングからして変わってくるだろう。そしてプロモーション、流通対策も専属スタッフをおいてやるとなれば、それは未だかつて造り酒屋がまともにやったことのない領域である。成果が出る可能性が大きい。


ただし、どんなマーケティングを展開するのか。大手酒造メーカーのように工業的に大量生産しているわけではない。ということはいくら売れたとしても売り上げ総額で考えれば、マスメディアを使った広告投資などは無理な話である。恐らくはセオリー通りに、各蔵ごとの特長にあったニッチマーケットでのナンバーワン戦略を狙ってくるのだろう。


販路で考えれば、酒販店・料飲店がある。となれば私なら料飲店を狙う。何もあえて全国の地酒を扱っている酒販店で競争する必要はない。それよりもむしろ、実は意外に日本酒にうとい料飲店の中で特定のカテゴリーに絞り込んで、その中でのナンバーワンをまず獲得する。


といった戦略を実は知人には以前提案したことがあったのだが、残念ながらこれを実行するためのマンパワーがないために実現できなかった。もしスタッフサービスが、そのマンパワーと全国ネットワークを活かして、この戦略を取ってくれたりしたら、どんな結果が出るのかとても楽しみだ。


日本酒は、貴重な日本文化の一つだ。焼酎が文化であるように、日本酒文化も決して絶やしてはいけないと思う。スタッフサービスにはぜひとも頑張ってもらいたい。





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