吟醸酒ナンバーワン戦略の強みとは


中国全土でのストアカバー約1000店


推定ではあるけれど、シェアにして70%程度を確保しているのが、奈良の造り酒屋である。その名を中谷酒造という。実は現社長とは中学・高校のときの同窓生であり、中国に出るときの様子をいろいろ聞いていた。
http://www.nikkei.co.jp/neteye5/suzuoki/20030630n566u000_30.html


中国へ出る。そう決めたのが今から10年以上も前のこと。幸いにも中国人パートナーに恵まれ、天津に工場を建てることになった。中国進出はいいが、そこでどんな戦略を取るか。いろんなアイデアが出た中で最終的に選ばれたのが、あとから考えれば見事なまでにランチェスター戦略に忠実な案だった。


すなわち、たとえどんなに小さな市場であってもナンバーワンブランドとなる。これによって圧倒的な競争優位を確立する。


同社が中国進出を考えた95年頃は、第一次の中国進出ブーム。日本とは比べものにならないぐらい安い人件費をアテにして、労働集約型の産業が中国に工場を造り、低コストで作った製品を日本を始めとする中国外の市場で売る。このビジネスモデルがまさにサクセスストーリーである。


しかし、中谷酒造はあえて逆張り戦略を取った。それも二重の逆張りである。


まず第一には、中国で作った酒は、基本的に中国で販売する。実はその頃の日本酒・中国市場は、ほとんど未開拓だった。というか、市場そのものがまだないに等しい状態である。だから、これはかなりチャレンジングな姿勢である。


もちろん日本酒はあったが、それは日本の大手ブランドが中国に輸出した酒。ということは、きちんと日本酒本来の手法で作られた酒ではない。ブランドこそ知られているものの、味はさっぱりといった商品である。しかも中国からみれば輸入となるために高い関税がかかる。ここに勝機ありとみた。


さらなる逆張りが、高コスト戦略である。中国は原料費が安い、それならば米を思いっきりぜいたくに使って良い日本酒を作ろうと考えた。精米率を高くすれば、当然雑味のないきれいな日本酒ができあがる。日本ではやりたくてもコストがバカ高くなってしまうために絶対に実現できない。そんなレベルの、とんでもない商品力を持った酒を造った。


また中国は人件費も安い。だから他の日本企業とは差を付けた給与体系をとって、可能な限り優れた人材を確保する。低コストを逆手に取って、思いきったコスト戦略を取ることで、そのころの中国の代名詞だった「安かろう・悪かろう」ではなく、「そこそこ安くて・品質はとびっきり」を実現した。


そしてマーケットを絞り込む。安くて品質のいい酒ができたのだから、それを日本へ持ち込んで勝負する手もあった。が、それはいずれ他の日本酒メーカーも考えそうなことである。結果的に日本市場での勝負となると、基礎体力が大きなメーカーには勝てない。


そこで狙ったのが中国での日本酒市場である。しかもさらにカテゴリーを絞り込んだ。小売りではなく料飲ルート、中国にある日本料理店でのナンバーワンシェアをめざす。これである。


実は日本料理店も困っていたのだ。なぜなら日本料理を出すからには、日本酒も出したい。というか日本料理店にやってくる日本人の駐在員は、当然のように日本酒を求める。しかし、まともな酒がない。いわゆる大手メーカーの酒を輸入でいれてはいるが、バカみたいに高い上にまずい。


狙い目はここである。


日本酒に対する『不』が渦巻く状況に、純米大吟醸クラスの酒を輸入日本酒(品質的にはごく普通の一般酒である)の3分の1ぐらいの価格でぶつけた。飲んでみれば、味の違いは誰にでもすぐにわかる。それぐらい品質に差を付けた製品となっていたのだ。


そして地道に、日本人が店長をやっている料理店を社長自らが一軒ずつたずねては、顧客開拓に務めていった。その結果、北京、大連、上海、広州とまず拠点を押さえた後、近隣へと面展開を図り、その結果が中国の日本酒市場での圧倒的シェアとなっている。


その後、日本からも中小メーカーが何社か中国に進出し、さらには大手も一社現地に工場を造ったが、中谷酒造が先行して確保したポジションをひっくり返すことはできていない。ランチェスター戦略、恐るべしである。


もし、日本酒に少しでも興味をお持ちの方がいれば、ぜひ同社の『朝香』をお試しあれ。こんな素晴らしい酒を中国で作れるのだ。
http://www.sake-asaka.co.jp/1_products/index.html




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『中国大活用/堺屋太一
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