ロックスターはビジネスになるか


1年で600万人動員、売上600億


『ア・ビガー・バン・ワールドツアー』byザ・ローリング・ストーンズがスタートしたのは、昨年の8月。今年の8月まで1年をかけて全世界31カ国を回り、123回ステージに立つ(ゲーテ誌・4月号)。


アメリカはもちろん、日本やヨーロッパに加えてロシア、クロアチアイスラエルなども回るらしい。チケット代はそれぞれの国の物価事情に応じて変わるだろうが、とりあえずアメリカではステージ近くの席となると6万円ぐらいする。


仮に全世界平均のチケット単価を1万円とすれば、動員数600万人で600億という計算だ。もちろん売上はこれだけではない。コンサート会場では、飲食にTシャツをはじめとするさまざまなグッズ、CDも販売される。ざっと見積もって、年間1000億ぐらいの売上にはなるだろう。


仮に1会場あたりのコストが、人件費も込みで1億だとしよう。132カ所なら、これで132億。さらにステージセットそのものが10億。あとは移動コストをどれぐらいみるか。まったく想像もつかないけれど、仮に1回あたり5000万ぐらいとして、これが66億。グッズについては原価率30%ぐらいだろうから120億。


ということは、1000億の売上に対して粗利が672億。
ものすごく大ざっぱな計算だけれど、これはビッグビジネスである。


しかも、このビジネスのコア・コンピタンスは人である。ミックジャガーは63歳、他のメンバーもみんな60過ぎ。
What a Crazy! これは一体なんだろう。


ロックがビジネスになる。はじめは誰もそんなことを夢にも思わなかったはずだ。ミックとキースが二人で曲を作り、仲間を集めてバンドをやり始めた頃は、とにかく自分たちが思うように演奏できればいい。ついでに生活費ぐらいは手に入ればいい。そんなノリだったのではないか。たぶんビートルズだって事情は、そんなに違わなかったと思う。


やがて小さなホールでのギグが始まる。一流になる人物からは、何らかのオーラが出るものだ。そのオーラにまず気づいたのは、ホールに集まった客だったのだろう。やがて彼らには客がついていることを理解したレコード会社が、レコードを出す。そこそこ売れる。


この先である。バンドを売り出すのに、誰かがマーケティングの仕掛けを持ち込んだのだと思う。60年代も初めのことだから、本場アメリカでもまだ、それほどマーケティングの手法は確立されていたわけではないだろう。しかし、ロックが金になると踏んだ奴がいたはずだ。


ロックビジネスを4Pで切れば、主な製品はレコードとコンサートになる。どちらもハード原価が占める割合は極めて低い。価値の本質はソフトにある。プライシングは相場にならったのだろう。少なくとも35年ほど前に日本で買えたビートルズストーンズのドーナツ盤は確か400円から500円ぐらい。LPが2200円ぐらいだったはずで、これはどんなアーティストでもほとんど同じだった。


プロモーションの手段は限られていた。ミュージックビデオなんぞないころのことだから、新曲のプロモーションはラジオがメインとなる。流通経路についてはレコードはレコード屋さんで買うしかなかった時代だ。


今から思えば、ずいぶんと不利な状況ではある。しかし、ビートルズストーンズの前には、無限の可能性を秘めたマーケットがあったのだ。彼らが創りだす音楽、発するメッセージに対する巨大な潜在ニーズがあった。ティーンエイジャーが、彼らの客になる。ここを見通した奴がきっといたのだと思う。ビートルズは解散してしまったが、ストーンズは70年以降もきっちりと売れて行く。


ストーンズビートルズ、この2大バンド以降、ロックはビジネスになった。音楽さえやってられればいい、音楽しか能がない。そんな奴もいたとは思う。しかし、そうした連中は自分たちが売れ始めると、自分を見失う。その結果がヤクに走ったり、アル中になったりするケースもあった。圧倒的に成功して、しかも生き延びたのは好きな音楽を演って金を稼ぎたいと考えた奴らだろう。


そういえば、これまた30年ぐらい前に『ロッキン・オン』を読み始めた頃、同誌ではよくレッドツェップのジミー・ペイジが金にうるさい、細かい、汚いなんてからかわれていたが、彼こそはもしかしたらバンドサイドでロックが金になることを意識し、自分たちで自分たちのマーケティングをやった最初の人物。なんてことを思った。




昨日のI/O

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『やまとことば』河出文庫
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