スーツマーケットに未来はあるか


2000年約3900億→2005年約2700億


紳士スーツのマーケットは、5年で1200億も縮んでいる。しかもその推移を見ると完全な右肩下がり、みごとなまでの一直線だ。2000年のマーケットサイズを100とすれば、昨年はその7割を切ったことになる(日経新聞3月11日夕刊)。


しかも、今後市場はさらに縮んでいくだろう。これからスーツ愛用世代ともいえる団塊世代のリタイヤが始まるからだ。これって業界にとってはとんでもない状態じゃないんだろうか。マーケットデータの提供元は矢野経済研究所で、同研究所の推計によれば、市場が前年対比マイナスとなるのはこれで13年連続である。


だからといって単純にスーツを着る人が減ったとはいいきれない。市場規模を分解すれば、単価×販売数になる。ということは、まずこの10年ぐらいのデフレの影響を受けて、単価が下がっているはずだ。また13年連続のマイナス成長ということは、市場が縮み始めたのが93年頃だということ。これはバブル崩壊の影響もまともに受けているわけで、単価ダウンに加えて販売数も大幅に落ちているのだろう。まさにダブルパンチである。


さらに、おそらくは大学を出てすぐに就職する人口が減っていることも影響しているはずだ。大学卒業人口そのものも、たぶん減少傾向にあるんじゃないだろうか。というわけで、紳士物スーツ業界には強烈な逆風が吹き続けている。暴風雨にさらされているといっても言い過ぎではないぐらいだ。


仮に、このままのトレンドが続くとどうなるのか。次の5年で市場がさらに30%縮むとすれば、2010年の市場規模は1900億前後となる。2000年からみれば、ほぼ半減する。10年間で市場が半分に縮むなんていうのは、とんでもないケースに違いない。これは自分が知っている限りでは、呉服マーケットの事例に近いのかもしれない。


仕事で呉服市場に関わっていたのは、1985年ぐらいから1992年ぐらいまで。今から思えば、この期間はおそらく呉服市場の終末期だった。まだ、何とかいろんな手を尽くして生き残りをはかりながらも、体力のないところから淘汰が始まっていた。バブル末期に京都の呉服問屋がこぞって手を出したのが、毛皮と宝飾品である。バブル崩壊に伴い、これに手を出したところから倒れていった。


やがて業界最大手が銀行管理に置かれ、室町の名だたる老舗がどんどん潰れて行く。では、紳士服業界も似たような流れをたどるのだろうか。


呉服が廃れていった最大の原因は、呉服ユーザーがいなくなったことに尽きる。呉服を着る人がいないのだから、売れるわけがないのももっともな道理だ。だから最後期に関わっていたころには、呉服の販促といえば着用提案が多かった。要するに、もっと呉服を着ましょうというわけだ。


しかし、この作戦はうまくいかない。今どき、呉服姿の女性を見る機会があるとすれば、成人式か入学式、卒業式、結婚式などのイベントに限られる。これとスーツを比べてみるとどうなるのだろう。


イベントのときに着る、という点では一致している。が、スーツがまったく呉服と同じ経過を辿ることはなさそうだ。ビジネスシーンでは、今のところはまだスーツが主流になっているからだ。が、ここでもアンチスーツの流れが潜行していることには注意しておくべきだと思う。


その象徴的な出来事が、昨年のクールビズだったのではないか。あれはもしかしたら、スーツにとっての、あるいは男性のワークスタイルにとってのターニングポイントになったとも思う。本来、仕事をすることとそのときの服装で考えるべきは、機能性であり、それ以外にはない。だからいわゆる現業に就いている人は、その職場で最も求められる機能にふさわしい服装をしているはずだ。


であれば、オフィスで仕事をするときに求められる機能は何か。この問いに対する答えが、スーツだとはどうしても思えない。そもそも、スーツは高温多湿の日本の風土に合った装いではない。夏場にスーツを着る必然性がないのは、機能面では明らかだ。そして夏場のスーツ着用の必然性がないのなら、それ以外の季節にスーツを着る必然性も成立しないはずだ。


もちろん限られた層の人たちにとっては、これからもスーツが必要ではあるのだろう。しかし、普通に働くのにスーツがこれからも必要であり続けるとは思えない。サラリーマンのワークウェアとしてスーツをポジショニングしていては、これからのスーツマーケットに未来はないと思う。




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