就職恐い


競争率1000倍


結婚式の企画運営を手がけるテイクアンドギヴ・ニーズでは、新卒募集30人に対して、ネットで3万人の応募があったという(日経新聞3月21日)。同社は98年創業のベンチャーである。社長は野尻佳孝氏、バリバリのヒルズ族だ。


それにしても1000倍はすごい。と思いつつも、さて、自分のときはどうだったのかと考えると、そんな競争率はまったく意識になかった。それより何よりその手の情報がまったく流通していなかった。そう思えば、この20年ほどで就職活動の世界もパラダイムシフトが起こっているのがわかる。


自分が買われる立場だった22年前は、とても残念なことにまったくの買い手市場だった。そのために一応は国立一期(古いですね、この表現は)とはいえ、一浪一留、しかも文学部なんて輩は、どこからもまともに相手にしてもらえなかった。もっとも、こっちも就職をあまり真剣に考えてはいなかった。とりあえずどこかに潜り込んで2年ぐらい働いて金を貯めて、それからちょっと旅行でもしたろかい、ぐらいの気持ちである。


こんな調子だから就職に当たっての心得なるものはまったくなし。当時、就職試験の解禁日だった10月1日に大阪駅まで出向き、そこからめぼしいところに電話をして「今から受けられますか」などとのんきなことをやっていたのだ。まあ文学部の中でも完全な落ちこぼれ組だったから、これは例外的にひどいケースだとは思うのだけれど。


ところが今では、まずインターンである。


去年、すこし仕事をさせてもらったベンチャー系の採用コンサル会社などは、社員の3分の1ぐらいがインターン、つまり学生さんだ。ある企業の会社案内を作ることになって取材に出向いたときには、入社2年目の管理職(!)とインターン生が同行した。そして、このインターン君が堂々とクライアントの社員にインタビューをしている。たまげた。


もちろんインタビューのテクニックはほとんどないから、お世辞にもスムーズとはいえない仕切り方になる。横で見ていてハラハラものだ。が、それでも物怖じしないというか、堂々としているというか。そして経験はなくともきちんと仕事をするんだという熱意は相手にしっかりと伝わるから、結果的に成果物はそれなりの上がりになっている。


一緒に動いていた別の女性社員にすこし話を聞くと、インターンだからといって甘く見てもらえることなど何もないらしい。ノルマを達成できなければ夜中まで残業することも平気というか、当然というか。なんで、そこまでするのかと問えば、それが「おもしろい」からだと。あるいは「それぐらいやっておかないと、先がないじゃん」とも。こんなセリフを24歳の女の子が口にする。


この女性とはベンチャー企業経営者7人を毎月訪ねて,一時間ばかり話を聞くという仕事を一緒にしたのだが、そのアポ取りから応対から何から何まで、もうベテランといった雰囲気が漂っている。いくら相手の社長が若いとはいえ、まったくビビってないのには驚かされた。


たぶん気構えがまったく違うのだ。


仕事をするとはどういうことか。ふりかえってみれば、このもしかしたら人生最大のテーマを、学生時代にまともに考えたことはなかった。とりあえず決めていたのは、イヤなことはやらないようにしよう、ぐらいのレベルで極めて幼稚である。ただ稚拙ではあるが、まわりの多くが陥っていた「それなりの会社に入っておけば何とかなるだろう」というより思考停止状態よりは、ましだと自分では思っていた。


ところが、今はそんなことではどうにもならない、と気付いている学生が多いように思う。それなりの会社に入れば、それなりの人生しか手に入らない。むしろいわゆる大企業でさえあっけなく倒産することがわかってしまった今では、それなりの人生さえなかなかなことでは得られない。あるいはイヤなことをやらない決意ぐらいでは、やりたいことに出会えるチャンスなんてまず巡ってはこない。ましてやベンチャー経営者のように、若くして功成り名を遂げ、さらには富まで掴んでしまいたいと考えるなら、それなりの心構えですこしでも早くから活動するに越したことはない。


そのための情報なら、いくらでも手に入る。


そんな状況になってきているのだと思う。おそらくここでもはっきりとした格差が生まれているのだろう。就職、仕事に対して自分なりのビジョンを持っている(あるいは、いろんな環境面での条件に恵まれて持つことができる)若者と、最初からそうしたビジョンを持つことなど考えることもできない若者と。


それにしても1000人の中から一人を選ぶ採用担当者の気苦労はいかほどなものか。一体、どうやってふるいにかけていくのか。選ばれた人間は、まさに一騎当千の人物になるわけで、ということは、この先もテイクアンドギヴ・ニーズは安泰なのか。あるいは逆にそれほどの人物なら、当然独立志向が強いだろうから、企業経営的にはどうなのか等々いろいろ考えさせられる記事であった。






昨日のI/O

In:
『「ロングセラー商品」誕生物語』
『売れる「現場」の知恵』
Out:
NPOアンケート依頼書

昨日の稽古:富雄中学校体育館

 ・基本稽古
 ・ミット稽古(回し蹴り・前蹴上げ)
 ・回し蹴りの受け