なぜいま、アナログが人気なのか


味わいがある:45% 品質が優れる:30%


これはアナログカメラに対する若者の評価。いずれも20代のデータである。デジタルではなく、アナログカメラへの評価が高まっている。もっともアナログ人気は何もカメラだけの話ではない。アナログレコードやアナログ的な筆記具の万年筆に関心をもつ若者も増えているそうだ(日経MJ3月29日)。


なぜだろうか。


日経MJではこうした現象をとらえてスロー志向の広がりとみているようだ。その背景として読んでいるのが、右肩上がりの時代の終焉である。いかにももっともらしい説明のようではあるが、はたして本当だろうか。マスコミにありがちなミスリードではないのか、と感じたときは、速攻、複眼思考にチャレンジしてみるべきである。すると、少し調べただけでまったく違った解釈も成り立ちそうなことがわかる。


その解釈とは。


要するに彼らにとっては、アナログが珍しいだけではないのか。なぜなら彼らは、おそらくこれまでにアナログにまともに触れた経験がないから。


少し歴史をふりかえってみると、デジタルカメラが登場したのは1981年のこと。この年SONYが発表した「マビカ」が、いわゆるデジカメの走りである。とはいえマビカは業務用であり、一般には普及しなかった。普及版のデジカメといえば何といってもカシオQVシリーズであり、これは1995年のデビューだ。いま二十歳の子にとって95年といえば、10歳になるかならないかといった頃合いである。
http://softplaza.biglobe.ne.jp/text/1999sp/digicam/digicam1_2.htm


奇しくもCDが開発されたのも、デジカメ登場と同じく1981年。その翌年にはまたもやSONYがCDプレイヤーを出す。だから音楽の方がカメラよりもやや早くからデジタル化が進んだようだ。
http://music.cocolog-nifty.com/001/2004/01/whoiskilling_cd.html


ということは、今の20代の若者たちが物心ついた頃にあったのは、音楽ならCDであり、カメラはデジカメだった可能性が高い。もっともカメラについてはフィルム付きカメラが流行った時期もあったから、一概にデジカメがメインだったとはいえないかもしれない。ここは判断留保である。


とはいえ、いわゆるアナログ一眼レフや、コンタックスG1のような本格的なカメラにあまり縁がなかったことは確かだろう。これまた余談になるけれど、コンタックスG1はめっちゃいいカメラである。G1+カールツァイス90ミリレンズのセットは、ポートレイトだけにとどまらず、ちょいとした風景を撮るのにもベストの組み合わせだと信じている。


少し話がずれた。


つまり音楽といえばCDばかりを聞いてきた耳には、アナログの音が新鮮に聞こえて当然だ。これはアナログレコードを聴きまくっていた耳には、CDのノイズレスなサウンドがアナログとはまったく違った世界としか思えなかったのと同じ理屈ではないか。


記憶をたどればCDで初めて聞いたドビュッシーには、確かにぶっ飛んだのである。ピアノとは、かくも繊細で、かくも表情豊かで、かくもクリアな音を奏でる楽器だったのかと、それまでのピアノ観が根底からくつがえされた。これこそがピアノの本当の音だとするならば、これまで聞いていたのは一体なんだったのかと嘆きもした。デジタルの音は温かみがないだとか、神経が疲れる音などの指摘もあるようだが、こと音楽に関してはデジタルのクリアさを個人的には好む。


一方、写真に関しては、今のところデジタルがアナログに勝てるはずもないと思っている。若者たちのいうアナログがどのレベルのカメラのことをさしているのかわからないのだが、たとえばモノクロ写真などを見れば、アナログのすばらしさはだれでも直感的に理解することができるだろう。いくら画素数が増えているとはいえ、デジタルとアナログでは記録の密度が違う、連続性が違う。たとえば次のサイトをご覧ぜよ。
http://yamayam.exblog.jp/1580856/


そもそもカメラとは、単なる記録装置ではない。人間の目では決してみることのできない風景を、時間の流れの中から切り取って見せてくれることにカメラの価値はある。その価値を究極のレベルで表しているのがモノクロ写真だろう。モノクロが表現する世界にあるのは、光と陰だけである。一つの構図の中で繰り広げられる明暗の微妙な混ざり具合は、人の感性に直接何かを訴えかけてくる力を持つ。


いつか、どこかで見たことのあるようなシーンを、見たこともない単色の世界に変えて見せてくれるのがモノクロ写真である。一方ではえもいわれぬ既視感を誘い、方や現実の世界では決して目にすることのない光から陰の部分へいたる無限の諧調性が表現される。この不思議な組み合わせが人の感性をいたく刺激するのではないか。アナログモノクロ写真のもつ微妙な諧調の変化を、デジタルではまだ表現し尽くすことはできない。


若者は「本物感」などといった用語を使っているが、それは他に的確な用語が提示されていなかっただけだろう。仮にアナログを本物というのなら、デジタルは偽物ということになってしまう。そんな単純な二分法が成立しないことは明らかではないか。


何となくデジタル=バーチャル=仮想空間みたいな連想があるから、その対立概念らしきアナログを本物扱いしているだけだろう。そもそもアナログvsデジタルの関係を厳密に考えるなら、この二つは本当の意味で二項対立といえるかどうかさえ怪しいと思う。


ということで結論。


アナログが受けているのは、単にその珍しさ故だという解釈も十分に成り立つのではないか。



昨日のI/O

In:
『男の常識をくつがえす新マーケティング
Out:
KLCマーケティンググループ企画案
空研塾ホームページラフデザイン


昨日の稽古:

 ・加圧ジョギング、腹筋、拳立て、鉄砲