足下をみる


平均支出金額4484円・前年比4.7%増


男性が靴にかけるお金が3年ぶりに前年実績を上回ったという(日経新聞4月7日)。それでも、個人的な印象としてはちょっと安すぎやしませんかと思ってしまうのだが、さて。


格好にはほとんど気を遣わないが、靴だけは別だ。服に比べれば、少しだけぜいたくをしてきた。ぜいたくといっても、5万も10万もする靴をはいているわけではない。せいぜいが2万円までなのだが、とはいっても1万円より安い靴を買ったことは、ここ15年ほどの間に一回もない。


サラリーマンになり立ての頃は給料も安かったために、靴を買うといえばディスカウントショップ専門である。そこで398とか498の革(じゃないな、きっと)靴を買ってはいていた。が、これが何とも足が痛く、足が靴に慣れるまで(靴が足になじむのではないですよ)一ヶ月ほどの間は、歩くのに難儀するような代物ばかりだった。


大嫌いだったネクタイは締めなきゃならないわ、足は痛いわでサラリーマンちゅうのは、なんちゅう苦役なんじゃと不満たらたらの毎日を送っていたのだ。ところがある日、たまたま目にした何かのファッション誌に「靴ほど、値段の差がはっきり出る買い物はない。1万円出すのと出さないのとでは、そのはき心地に雲泥の差がある」なんて一文があった。


ほんまかいなと思って、ものすごく思いきって1万円ちょっとするリーガルのローファーを買ってみた。この靴一足で、トリスのポケットビンが70本も買えるんやで。おまえ正気か? ほんまに買うんか? なんて自問自答してかなり長い間、悩んだことを未だに覚えている。


ところが、履いてびっくり、歩いてみてさらにびっくりである。


もちろん足はまったく痛くない。歩きやすい。というか歩くのが心地よい。これが靴というなら、今まではいてきたものは何だったのかといいたくなるぐらいの落差がある。そして一ヶ月ぐらい経った頃には、なんと見事に『靴が足に』なじんでいた。


それ以降、安物の靴は買っていない。もちろん何ごとにもデフレが進んだ最近のことだから、もしかしたら1万円以下でもいい靴があるのかもしれない。あるいは10万も20万もするフルオーダーの靴なんてのも、それこそ履いてみればまた靴に対する世界観を一変させるようなはき心地なのかもしれない。でも、靴に20万もかけるようなことは、たぶん絶対にやらないだろうな(というか、そんなご身分にはまずなれないだろうし)。


ただ一つ気をつけているのが、いつもピカピカにとまではいわないにせよ、できるだけ手入れに手を抜かないこと。「足下を見る」なんて諺にもあるように、きちんとした人は、靴もきちんとしている。この「きちんと」というのは、靴の高い安いでは決してなく、手入れが行き届いているという意味だ。


靴だけをもって人を判断するのはどうかと思うけれど、どんな靴を履いているのか、その靴の手入れの具合はどうかをみるのは、相手を知る上での第一情報ぐらいにはなると思う。そう思えば、これまでインタビューさせていただいた相手の足もとは、みんなきっちりしていた。この人の靴は変だな、なんて思った相手は一人もいない。


靴に対する考え方(たいていは無意識なんだろうけれど)には、その人の本質につながる何かがあるのかもしれない。




昨日のI/O

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メールマガジン第7号
田坂広志氏・インタビュー原稿


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