インフォメーション・アーキテクチャーとは


実は今日で300回目のエントリーとなる。正直、よく続いたなあと思う。


第一回目を書いたのは去年の5月3日。お題は「事故の状況を誰がそんなに知りたいか」である。JRの事故を報じるテレビの様子について書いているのだが、いま読み返してみると、これが何だか恥ずかしくなるぐらい偉そうな調子だ。思えばこれがインターネット上で、自分の名前を出して何かを書いた初めての経験だった。


そもそもネットについて興味を持ったのは、かなり早い方だったと思う。キッカケは『AXIS』なるデザイン誌だ。この雑誌ではいろいろと海外のデザイン事情を紹介していて、その中に「これからはインフォメーション・アーキテクチャーの時代だ」なんて特集があった。この言葉に実に強いインパクトを受けたのだ。何が何だかよくわからないけれど、とりあえず響きがカッコいいではないか。


さらに記事を読むと、このインフォーメーション・アーキテクチャーなる仕事は、企業のホームページを設計する仕事であり、ということは未だかつてなかった職種であること。すなわち相当に高いレベルのインテリジェンスを求められる職業であり、報酬もそれに見合ったものとなることなどが書かれていた。アメリカでそれなりの企業のホームページ作成を請け負えば、一案件で一億円ぐらいにはなるとある。「もう、これしかない!」と思ったわけだ。


一体、何が「これしかない」のかといえば、この先の自分の進むべき道がである。文系人間の負い目なのかもしれないが、なぜか「アーキテクト」だとか「設計」といった言葉にはからきし弱い。そこで本物の、つまり建築物の設計士には今さらなれないとしても、まったく新しい職業であるインフォーメーション・アーキテクトなら自分でも潜り込めるのではないかと安直に考えたのだ。


で、いろいろと調べてみた。


すぐにわかったのが、ホームページ作成とは要するにプログラムを作ることだということ。イコール、自分には「ムリ」である。残念ながら「これしかない」は、一瞬にして「こんなのムリ」となってしまった。


もっと調べていくとプログラムを書く前に、本当に「設計」と呼ぶべき作業がある。そもそもアメリカでは企業がホームページを作るのは何のためかといった議論がきちんとあり、そこではホームページ作成は企業にとっての設備投資であるといった見方が主流となっていた。


つまり経営上の費用対効果を見込み、何らかの価値を創りだす手段が企業ホームページである。これはおもしろい考え方だと思った。と同時に、じゃあ、いま日本ではやっているホームページブームは、全然本質と違うことをやってるのだいうこともわかった。ほら、あったでしょう、最初の頃には印刷物の会社案内をスキャンして、そのまま画像データとしてホームページにしていたようなひどい例が。


そんなこんながはるか昔のことのように思えて、実はせいぜい5〜6年ぐらい前でしかない。その間に状況は著しく変わった。


まず通信環境がまったく違う次元にレベルアップした。電話回線と光ファイバーでは、速さが数百倍違う。この劇的ともいえる環境の変化が、ホームページのあり方にも大きな変化をもたらしている。初期の頃にはさかんにいわれたユーザビリティ・ルール、たとえばトップページの8秒ルール(表示されるまでの時間のことですね)とか、3クリックルール(目標のページにたどり着くまでの理想的なクリック数)なんて、今ではほとんど意識されない。


一方ホームページ作成については、ブログがやはり革命的な変化をもたらしている。もちろんブログにはいろいろな制限があるにしても、それこそ5分もあれば誰でも自分のブログを作ることができる。たぶん小学生でもできる。ましてや企業だったら、ブログに少し工夫をすれば、それだけでも立派なホームページになる。少なくとも特定の機能を果たすサイトには十分になる。それが今の状況だ。


そして、もしかして5年後ぐらいには、少なくとも『ネットでも』何らかの情報を発信していない企業は、5年後の世の中では存在していないに等しいぐらいのポジションしか得られないのではないか。あるいは、同じことが5年後の大学生ぐらいから40代前ぐらいの世代の人たちにとってはあてはまるのではないか。そんな予感がする。


要するにホームページさえない企業に存在感はなく、ブログさえ持っていない個人は、それだけでメインストリームからは疎外されてしまう。そんな状況が来るのではないか。


であるとしたら、インフォメーション・アーキテクチャーとは、まさにこれからの時代にこそ求められる仕事ではないか。ちなみに今のところ『13歳のハローワーク』には、この仕事は登録されていないようだが、きっと次の改訂では取り上げられるだろう。めざせ、インフォメーション・アーキテクチャーである。



昨日のI/O

In:
『先生はえらい/内田樹
『ためらいの倫理学内田樹
Out:
自社ホームページ用テキスト


昨日の稽古: