エンジェルレッグ、大ヒットの理由


1週間で3万足


何ということのない数字のように思えるが、これでも靴下マーケットでは爆発的な出足となるらしい。なぜなら同マーケットでは通常はワンブランドの年間販売数がせいぜい2万足ぐらいにしかならないのだから。今のところ今年度の売上予測が30万足、もしかしたらルーズソックスに継ぐお化けヒットになりそうなのが『エンジェルレッグ』、ユニチカ通商が販売した女子中高生向けの引き締めタイプの靴下だ(日経産業新聞7月21日)。


これが見事なまでに最近のマーケティングセオリーに忠実に開発された商品である。すなわちProduct、Price、Promotion、Placeに加えてPackageの5要素がいずれもきちんと考えられている。


まずProduct。商品の発想自体は二番煎じである。引き締め(特に段階引き締め)効果を持つ靴下は、いわゆるF1層の間ではすでにヒット商品となっていた。むくみ抑制=足がほっそりきれいに見えるメリットが受けていたわけだ。そこでユニチカ通商が考えたのは「女子高生だって足を細く見せたいはず」という当たり前のニーズである。


F1対象の段階引き締め靴下は、約1200万人いる働く女性マーケットが対象。ところが女子中高生のマーケットサイズは約400万人。働く女性に比べて3分の1しかないし、可処分所得も低い。しかし、今このマーケットを狙えばナンバーワンブランドとなれる。このマーケットサイズに対する評価がユニチカ第一の勝因である。


ただし、イメージの問題を克服する必要があった。つまり「段階引き締め靴下=働く女性(=女子高生からすれば、すでにオバさんである。ダサいのである)」イメージをいかに克服するか。そこでポイントとなるのが、パッケージというわけだ。


エンジェルレッグのパッケージ開発には相当の時間がかけられたようだ。最終的には女の子のイラストが使われているのだが、このイラストが徹底的に細部にこだわった仕上がりとなっている。

「髪形」「袖の長さ」「カバンの飾り」といった外観だけでなく、「電話の持ち方」や「足の重ね方」といったしぐさまでキャラクターのデザインには細心の注意を払った
日経産業新聞7月21日)


まさに『神は細部に宿る(ミース・ファン・デル・ローエ)』のである。そして、外から見ている限りではとてもそんな繊細さを持ち併せているとは思えない女子中高生の中には、こうした微細な部分に敏感に反応するボリュームがあるようなのだ。そこでおそらく彼女たちの中のイノベーター層にうまくアクセスできたのが、勝因なのだろう。


プロモーションとしても、なかなかうまいところに目をつけている。


6月にまず修学旅行先として全国から女子中高生が集まる京都で、サンプリングをやった。と同時に大手芸能事務所のモデルにもサンプルを配布。推測ではあるけれども、このオシャレ感度トップクラスのモデルと、感度的にはすそ野に位置する全国各地の女子中高生の両方にアクセスしたことがよかったのではないか。つまりピラミッドの頂点と底辺から火をつけたわけだ。


さらにPlaceでも一ひねり加えている。つまり大人向けの段階引き締め靴下では圧倒的なポジションを取っているピップフジモトに卸し業務を一任。ピップにとってエンジェルレッグは、直接の競合ではない。しかし段階引き締め靴下というカテゴリーのボリュームアップにつながる商品であり、このカテゴリー全体の認知度アップにつながる。これを扱えばピップサイドにはメリットがある。


一方ユニチカにしてみれば、すでにドラッグなどでしっかりとフェースを押さえている『段階引き締め靴下』の隣接ラックに、エンジェルレッグを並べてもらえる。まずフェースを簡単に取れるわけで、しかも告知効果も極めて大きい。


最後にPriceも大人用が2000円以上するのに比べて1000円に設定した。まさにマーケティングの教科書に載ってもおかしくないようなケースだと思う。エンジェルレッグの開発チームではいま、同ブランドの確率に向けて靴下以外の商品開発に取り組んでいるという。これがどうでるか。移り気な女子中高生に続いて受け入れられる商品が、そうそう簡単に見つかるのかどうか。ユニチカ通商の次の動きは注目である。



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