空手のための読書・パート5
ルールが技術を規定する
何を当たり前のことを、と言うなかれ。武術と格闘技の決定的、根源的な違いを、このひと言で喝破しているのが『八極拳ノート/山田英司』である。
格闘技とは、ルールを設定することにより、強さの測定基準を明確にしたものである。その測定基準内の強さは発達させるが、それ以外の強さの測定基準に関しては無関心である。むしろ、測定外の動きは、しばしば反則として排除される傾向にある。
(「八極拳ノート」山田英司、東邦出版、2005年、10ページ)
だから格闘技と武術は違うのだ。
たまに昔の極真のチャンピオンと世界大会が開かれるようになって以降の極真のトップではどちらが強かったのか、なんて質問を見かけることがある。たとえば、このエントリーでも名前をあげた山崎照朝氏といまの松井章圭館長が闘えばどうなるのかと。
なかなか興味深いテーマではあるが、こうした質問には実はほとんど意味はない。なぜなら、山崎氏と松井氏では稽古していたときの大前提がたぶん異なっているからだ。よくいわれることだけれど昔の極真、まだ大山道場と呼ばれていた時代の稽古では、当然のように顔面アリだったらしい。となると顔面への攻撃を強く意識する。となれば間合いの取り方からまったく変わってくる。
どちらが良い悪いの問題ではない。根本となるルールが違うのだ。だから、フィリオが顔面アリルールのK-1などに参戦して苦労したのに対して、昔の極真の強者(山崎氏、廬山氏からそれ以前の中村忠氏とかも含めて)は、いきなりキックボクシングに転向しても、ほとんど負けなかったのだろう。その意味では昔の極真空手の方が、より武術的だったとはいえるのかもしれない。
そしてこの一文に触れたとき、やはり思い出したのは塾長の言葉だった。それはものすごく単純なひと言で「いつも顔面をカバーすることを意識しなさい」と。これだけである。顔面を意識するのは、上段への蹴りだけを考えてのことではない。普段稽古している空手は、顔面への手の攻撃が反則(=ルールによる制限)だけれど、それを前提として練習するのは武道じゃないよということだ。
だから空研塾では、黒帯の審査で五つのスタイルでの組み手を求められるのだ。すなわち通常の極真系ルールから、掴み、投げ何でもありとか、あるいは顔面ありルールとか。このあたりは、塾長から直接聞いたことはないけれども、黒帯とは武術家を指す言葉であり、武術家としていかにあるべきかをはかることがすなわち黒帯審査の基準であるといった塾長の考え方が反映されているのだと想像する。
ここで少し話がややこしくなるのだけれど、いま自分は一体何をめざしているのかが問われているのだと思っている。あるいは、今の自分の悩みがここに集約されているといってもいい。
つまり空手(あるいは武道)とこの先、どう付き合っていくのかといった問題である。試合に出て、勝つことを目標にする。これも一つの付き合い方である。というか本来は、まずここから始まるのだと思う。そのためには、その試合のルールの中で、もっとも合理的な闘い方を考え、それに見合ったトレーニング法を積むことが一番だ。これを突き詰めていけば、とりあえずはスタミナ、パワー、反射神経などの勝負になっていくのだと思う。
もちろん誰もが全日本チャンピオンや世界チャンプになれるわけではない。しかし自分の限界を見極めた上で、その少し上のランクをめざして努力を重ねていく。それによって肉体的にも精神的にも成長する。その積み重ねが人間的な成長にもつながっていくのだと思う。それはよくわかる。
わかるのだがしかし。
正直なところ、50を目前に控えて、そうした方向に進むのは難しい。これまでに二回、茶帯の審査に向けて体を鍛えようとしては、膝を壊している現状を考えれば、たぶん自分には無理な路線なのだろう。では試合に出なければ、あるいは審査で上をめざせなければ、空手(あるいは武道)を続ける意味はないのか。
『八極拳ノート』は「茶帯を目指す技術書」とある。なぜ黒帯ではなく茶帯なのかと言えば、それが普通(つまり天分に恵まれていなくとも、体格的に優れていなくとも)の人でも、頑張ればたいていが到達できるレベルだからだろう。自分としても血圧問題さえ解決すれば、チャレンジするつもりだ。とりあえずはめざせ茶帯である。
目指したいが、仮に血圧のことを考えれば、今後、そうした稽古をやってならないと医者にいわれる可能性もある。もし、そうなったときにどうするのか。目指すところがなければ、空手を続ける意味もないのか。
そんな悩みを抱えるようになる少し前ぐらい、これ以上ないタイミングで出会っていたのが内田樹先生、甲野善紀先生の本だった(まだ、しつこく続く)。
昨日のI/O
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昨日の稽古:
八極拳ノート―発勁呼吸と戦闘法概論 (Budo‐ra books)
- 作者: 山田英司
- 出版社/メーカー: 東邦出版
- 発売日: 2005/11
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