空手のための読書・パート6


ためない、うねらない


ある時期から、塾長がこんなことをいわれるようになった。最初は何が何だか状態である。だって、そうでしょう。空手の突きといえば、腰のひねりを効かせて体をねじって突き込むもの。だったはずだ。が、しかし。その話を聞いたとき、ある伝統空手では、追い突きがメインだという話をどこかで読んだ記憶がよみがえった。


正直なところ、この追い突きという技が実によくわからん技だったのだ。たとえば右手で突く場合には、右足を前に進め、その前進する勢いを拳に乗せて突く。逆突き、つまりボクシングでいうストレートのように腰をひねりきるように使うことはできない形である。野球に例えるなら右手で投げる時に、左足を一歩前に出すのではなく、右足を前に出しながら投げるようなやり方になる。どうにも不自然だ。


不自然ではあるのだけれど、これがその頃注目され始めた『ナンバ歩き』と基本的には同じことを意味していていることがわかった。また前にある方の手で攻めるという意味では、自然ではある。あるいは体を相手の攻めに対して常に斜めに保ちながら攻めるという意味では合理的ともいえる。「!」である。


ナンバ歩きとは明治以前の日本人の普通の歩き方だといわれる。同じ方の手と足を前に出す、といった捉えられ方をしているようだけれど、本来のニュアンスは少し違う。要は二軸歩行といえばいいか。あるいは体をひねらずに歩くといったほうがわかりやすいか。


着物姿で歩きやすい体の動かし方といえばイメージがわくだろうか(着物などに馴染みのない人にとってはかえってわかりにくいか)。たとえば自分の体を一枚の板と考えてみる(着物は洋服のように立体裁断によって仕立てられないから、どうしても板的な状態になる)。そして歩く姿を上から見たと考えてみると、右側を前に出す時には体の面全体が右斜めになり、左側を前に出す時にはその反対になる。一枚の板であるわけだから、体の両側に軸が出来る。そんなイメージだろうか。


このナンバ歩きは、陸上競技の末續選手が取り入れているらしいことがわかって一気にブレイクした。そして武術家で以前からナンバ歩きや、体をバラバラに使うことなどを提唱されていた甲野善紀先生が注目されるようになる。この頃(たぶん2〜3年ぐらい前だろうか)には、いわゆるムック本で甲野先生が登場するものがたくさん出た。それらを買い込んで読んでみると、今までいわれていた体の使い方とはまったく別の話が書かれている。


そんなこといわれても、いきなりは出来ないのである。とはいえ、できないといってそのままにしておくのも口惜しい。とりあえず『ナンバ歩き』だけでもマスターしてやろうじゃないのと、まずは歩く時は必ず、ポケットに手を突っ込んでみるようにした。こうすると自然にナンバ歩きにならざるを得ないわけです。こうやって歩く練習(まさしく練習ね)してみると、ナンバ歩きとは腰から歩くことなのかもしれないと感じるようになった。そして、もしかすると、こちらの方が自然な歩き方なのかもとも思うようになった。


それが正しいことが決定的にわかったのは、生駒山登りをしたときのこと。この頃、春になると子どもたちを連れて山登りをしていて、ちょうどナンバ歩きを始めて半年後ぐらいに山道を歩いてみると、いつもと同じコースなのにまったくといっていいぐらいに疲れなかった。これは発見である。もしかすると、今まで考えていたのとはまったく違った考え方に基づいた体の使い方あるのではないかと身を以て感じた。


甲野先生の本はたくさん読んだけれど、残念ながら今のところ何となくレベルでできるようになったのはナンバ歩きだけ。その他にも膝抜きによる移動とかたくさんある体の使い方を少しずつでも学ぼうとはしているのだが、なかなかうまくいかない。ま、50年近く何も考えずにやってきた体の動かし方を根底から変えていくというのは、なかなかそう簡単にはできるものではないのだろう。


そして、まったく別方向からたどり着いた内田樹先生が、実は合気道の達人であり、武道論を書いていることを知ってしまう。しかも内田先生は、合気道の前には空手もやっていたというではないか。これはと思い、先生の本を片っ端から読んでいく中でであったのが『私の身体は頭がいい』である。


これはすごい本である。これまでのエントリーで空手関係には指導書がたくさん出て来ていること、その中でも最近出版された本の中には、かなり理論的に(つまり合理的に)体の動かし方、闘い方を説いたものがあることなどを書いてきた。昨日紹介した『八極拳ノート』などはその典型だ。が、武道そのものを対象として、その意味を科学的に説いた本はこれまで日本にはなかった。その意味では日本初にして唯一の科学的武道論がこの『私の身体は頭がいい』なのだ。


続きは明日に。やっと終わりが見えました。
&実は昨日のエントリーが400号でした。



昨日のI/O

In:
Out:
IR優秀企業ホームページ分析

昨日の稽古:富雄中学校体育館

・コーディネーショントレーニン
・基本稽古
・組手立ちでの移動稽古
・ミットを使った受けの稽古
・蹴りに対する受けの稽古
・自由組み手