亀田興毅のプロモーション


誰が見ても3対0で負け


マーケティング的には最悪のシナリオとなったのが、昨夜の世界タイトル戦とではないか。亀田という商品を使って、最大限に利益を上げたいのは何よりも後援に入っているマスコミだろう。もちろん所属ジムや亀田一家も興毅の商品価値はよくわかっている。だから、何としても世界チャンピオンにしなければならなかった。


事情はわかる。


シナリオも出来ていたはずだ。おそらく南米系のジャッジを除く審判団二人にはかんで含めるような指示が出ていたのではないか。もしかすると挑戦者自身にも「万が一、ノックアウトでもした日には」といった話がいっていたのかもしれない。じゃないと最終ラウンドの『自制』は説明がつかない。それぐらいあからさまな試合だった。


問題は、その『あからさまさ』が誰の目にも明らかになってしまったことだ。昨夜の会場に駆けつけた観客の中には、にわかボクシングファンが多くいたはずである。またテレビを見ていた人の中にも、これまではボクシングなど見たこともない人が結構いたのではないか。そうしたボクシングを見る目のない人から見ても「おかしい」と思われる判定をしてしまった。


これは最悪のシナリオである。


一連の亀田プロモーションのバックには、マーケティングのプロがついている。これは間違いないだろう。だから年上の相手に対して日本の恥をさらすようなものの言い方をあえて『させ』、失礼きわまりない態度を『取らせる』。これはショーの盛り上げ方、演出の手法としては、良い悪いはおいておくとしてアリである。


が、このプロは最大にして、最悪のミスを一つ犯した。それはオプションシナリオを用意していなかったことだ。


おそらく挑戦者が決まった時点で、絶対に負けはないと決めつけてしまったのだろう。相手は歳である。しかも体格的には亀田の方が上。勢いで考えれば上り坂にあるのは亀田の方だ。最悪でも引き分けすらないと踏んでいたのではないか。


が、それはボクシングをあまりにもなめた考え方だと思う。しかも世界ランキングトップクラスのボクサー同士が一応は闘うのだ。その拳はやはり凶器と呼ぶのがふさわしい。いくら指示が出ていたとしても、リングに上がったボクサーの心理状態は普通ではない。しかも目の前にいる亀田は、自分を倒しに来ているのだ。倒すつもりはなくとも、力の入ったパンチを出してしまうことはあるだろう。


そしてワンパンチで、それもノックアウトするつもりなどなくとも、相手が前がかりででてきているところにうまくカウンター的に入ってしまえば、ダウンさせてしまうことはある。これをシナリオとして想定できていなかったのだと思う。これが第一ラウンドの話だ。


そこでパニクってしまったのだろうか。何が何でも亀田の勝ちといったシナリオから別のシナリオに切り替えることができなかった。そもそもオプションシナリオがなかったのだから仕方がないのかもしれない。が、結果は最悪である。


あれを仮に引き分けにしておけばどうだったか。


亀田初の引き分け。しかし、序盤のダウンをはね返し、中盤は押し気味だった。終盤スタミナが切れて動けなくはなったが、それは全力を出し切った証じゃないか。よくぞそこまでがんばった。まして初めての世界戦である。本当によくやったじゃないか。次はすっきりと勝ってくれ。


といったムードが醸成されていた可能性が高い。実力を冷静に判断すれば、圧倒的といえるほど相手にやられていたわけではない。ホームタウンデシジョンを計算にいれても引き分け判定なら、おそらくほとんどの人がすっきりと納得できただろう。


それをムリヤリ『勝ち』に持っていったことによって亀田人気は落ちてしまった。おかげで戦前からいわれていた虚像であるとか、作られたチャンピオンだといったイメージの方が強まっている。これは実にもったいないと思う。ボクサーとして亀田を見るなら、そのパンチ力や動きが世界ランク上位クラスに入っていることは間違いないのだから。なのにあの判定では、ボクシングを知らない人は「なんだ、やっぱり亀田は本当は弱いんじゃないか」と思ってしまうだろう。


これがもったいない。
そして亀田興毅君がかわいそうだ。


あえて作られたキャラクターに従い、そうした対応を強制的にやらされているうちにいつしか興毅君が、自分本来の性格を歪めていってしまっていることをまわりの大人たちはどう見ているのだろう。興毅君の本当のキャラは、昨日の試合前の子どもの頃のビデオをみればわかるではないか。今の彼の態度は本来の姿ではないと思う。もし今回の判定が引き分けだったら、そこから方向転換することだって出来たはずなのに。


そのことで一番心を痛めているのは、実はお父様ではないのか。一連の亀田プロモーションのシナリオを作っている人には、そのあたりのことを考えて、もう少しうまくやってもらいたいと強く願う。このままでは興毅君があまりにもかわいそうであり、日本ボクシング界の損失も大きい。




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