30分フィットネスは成功するか


3%と5%


国内の人口参加率でみればわずかに3%。マーケットとしてまだまだ拡大の余地があるのがフィットネス業界である。確かアメリカでの参加率は20%弱ぐらいだったはずだから、「アメリカ並み」を基準に考えるなら、まだ6倍ぐらいの伸びを見込むことができる。


一方で5%が何かといえば、毎月の退会率である。関西をベースとする準大手フィットネスチェーンの仕事を過去に5年ぐらい続けていて、そこの悩みが一向に減らない高い退会率だった。だって、そうでしょう。一ヶ月に5%ずつやめていくということは、一年で60%が入れ替わってしまうわけですから。それでも経営が成り立っているのが、とても不思議だった。


逆にいうと入会促進を躍起になってやらないとダメというわけだ。おかげで私の直接のクライアントだった代理店には、やれチラシだ入会キャンペーンだとバンバン仕事が入ってきた。


根がまじめというか、ストレートバカでもある私は、個人的には、入会促進に経費をかけるなら、そのお金を退会防止に回した方がずっといい組織になりますよとか、新規顧客獲得コストと既存顧客維持コストを一人あたりで比べれば既存顧客維持の方が4倍ぐらいコストパフォーマンスが高いですよ、なんて説得したんだけれど、あまりまともに聞いてもらえなかった。


なぜ退会率が5%をキープするのか。やめていった顧客は何かの『不』を抱えていたはずだ。では、その『不』を何とかして聞き出しましょう。やめて行った人たちの中から、毎月3人でも5人でもいいからアクセスしてインタビューしてみましょうと、これまた何回も提案したのだが、しかし。


担当者の答えは「そんな、お客さんが不満を持っていることが上に伝わったら、それは問題になるなあ」とか、あるいは各店の店長クラスは「それは要するに、お前の店が悪いということになるやないか。そんなんとんでもない話や」となった。顧客の『不』に直面するのは、なかなかに勇気の要ることなのだ。といいつつある年のプレゼンで、こちらが勝手に主婦モニターを使って、競合も含めてかなり大がかり覆面調査をやったレポートは、それなりにおもしろく読んでもらえたようだけれど。


残念ながら、このチェーンの仕事は昨年から別の代理店が仕切ることになり、今はまったくタッチしていない。それでも今年もプレゼンだけは参加することになり、昨年の年末からいろいろ状況を調べたり、企画を考えている中で引っ掛かってきたのが、タイトルにある『30分フィットネス』だった。


これはアメリカの『Curves』社が開発した新業態である。フィットネスクラブといえばこれまでは、まずスタジオ、ジムにプールの3点セット、+ゆったりできる風呂がここ数年の日本では一つのスタンダードとなっていた。これは、今後増えていく高齢者の取り込みを考えてのことである。彼らの時間消費の担い手となるためには、ゆったりくつろげることが必須条件だと大手チェーンはどこも考えていた。


ところが『Curves』が狙ったのは、まったく違うターゲットである。働く忙しい女性(F1層プラスアルファといったゾーン)を狙って、彼女たちのヘルシーニーズを手軽に満たせるよう一回30分でできるトレーニングに的を絞りこんだ。しかも、この施設は男子禁制である。


だから設備は30分でこなすサーキットトレーニング用のものが10点ぐらいあればいい。となればこれまでのフィットネスクラブのような大きなスペースも必要ない。プールもジムも不要、ロッカールームにシャワーぐらいはあるが、従来のフィットネスクラブに比べれば開業コストが圧倒的に少なくて済む。


この『Curves』が日本でも本格的な展開を始めることが、去年末ぐらいにはわかっていた。プレゼンにはこうした状況を盛り込んでおいたのだが「まあ、いかにもアメリカらしい合理性から生まれた業態だから、それがそのまま日本でも受け入れられるとは思わない」みたいな反応が帰ってきたらしい。


あにはからんや。日本でもこれが受けているらしい(日経MJ新聞8月2日)。国内最大手で本家『Curves』と組んでいる『カーブスジャパン』が一号店を開いたのが昨年の7月のこと。これが1年で160店にまで増え、すでに会員数が3万3千人。といえばすでに国内でトップ10に入る(正確には7位ぐらいじゃないんだろうか)会員数である。そして年内300店、2010年には2000店を目指すという。


もし、これが実現するならば、国内のフィットネス業界にはまさしく黒船来襲(確か、このキーワードは今年の企画書に使ったな)である。これまでのフィットネスクラブはコスト構造が根本的に異なるために、この30分フィットネスとまともに太刀打ちすることはできない。やがてはとりあえずヘルシー志向の忙しい女性(ということはF1層のほとんどだ)はカーブス、時間を持て余している高齢層がフィットネスといった棲み分けができていくのかもしれない。


であれば、やはり従来型のフィットネスクラブはコスト構造を変えて、つまりサービス充実のためにコストをかけて(ということは、人件費にまずコスト配分を厚くして、体育会系ではなくサービスに長けた人材を雇うようにしてということですね、ずっと提案していたのは)、既存会員の固客化を図るのが望ましいと思う。


そのためには、最初はイヤかもしれないけれど良薬は口に苦しなんだから『不』調査をやるべきなんだけれど。やらないんだろうなあ。ルネサンスでもセントラルさんでも、あるいはコナミ(=エグザス)さんでも、もちろんコスパさんでもいいから顧客『不』満足度調査をやりませんかね?



昨日のI/O

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餓狼伝夢枕獏
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IR優秀企業サイト分析

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