痛みのない恐怖


かぶせが取れた


歯のことである。先日、晩飯をほろ酔い気分で食べていると、歯にカチンと何かが当たった。えらいでかい砂やな、と思えばそうじゃない。口から銀色のかぶせがでてきた。かなり大きいかぶせである。


とっさに浮かんだのは、かぶせが取れる→虫歯がむき出しになる→水、お湯、あらゆる食べ物がしみまくる→激痛に見舞われる、といった不吉な連想である。が、あにはからんや、痛みはまったくない。なぜだろうと考えることしばし。


46年も生きていると、どの歯をいつ、どのように治療したかなどといったことは、当然覚えていない。が、これだけのサイズのかぶせが取れても、なにも痛くないということは、たぶん神経を抜いてあるのだろうと思いついた。やれやれ、一安心である。神経さえ抜いてあれば、こっちのもんだ。とはいえ、ものを噛みにくいことおびただしいので、とりあえず歯医者に予約の電話を入れた。そして今日行ってきた。


そこで先生の第一声。
「とれたのは、いつですか?」
「確か先週の土曜日でしたが」
「それはいかんなあ。かなりまずい」
???である。何がマズいのか、さっぱりわからないのだが、とりあえずびびり始める。
「痛みはまったくないでしょう?」
「ええ。少しも」
「神経、抜いてありますからね。それが恐いんですよ」
「?」(かなりビビってくる)
「すごく穴が深いんです、ここ。ということは、そこからばい菌が入る可能性があるんですよ。ところがばい菌が入って化膿したり、炎症を起こしても神経がないから痛みを感じないんです。もっと早く来てもらわなきゃ」
「そうですか(って、今日まで予約がいっぱいやって言うたん、あんたんとこの受付の人やんか、と思いつつもかなりビビる)」
「とりあえずレントゲン撮って、しっかり調べて、消毒きちんとやって、それからかぶせを作り直しましょう。ちょっと通ってもらうことになりますよ」
「はい(もうビビりまくってるので、先生の言うがままだ)」


といった案配で、今日はたっぷり30分間、やってもらった。まずはドリルである。最初はかなり細い針みたいなのでチュィ〜ンとやられる。たぶん、汚れを取っているのだと推測する。次が電気ノコギリのミニチュア版みたいなの。これいれるときには「ちょっと振動きついですけれど、痛かったら手を挙げて」などといわれる。


さすがにでかい分だけ口を大きく開けさせられ、それがつらい。が痛みはない。さらに少し太いドリル、ノコギリタイプを何回か繰り返した後、先のトンがった針のようなものでコキコキされる。これまた歯に当たる分にはまったく痛くないのだが、ときどき歯肉に針があたると、ビクッとする。正確にいうと「痛くなんかないから、安心してようね」って自分に暗示をかけているのに、いきなりチクッとくるので、思いっきりびっくりする、といったところか。


そのあと、大きく口を開けさせられ、その状態で固定される。そして件の虫歯の奥にまでなにかを突っ込まれる。そこからが長かったのだ。何をやっているのかはほとんど見えないのだが、というか正確にはみようとしなかったのだが、次から次へと何かを差し込んでいるようだ。たぶん消毒液を神経の根元にまで行き渡るよう何度も何度もいれてくれているのだろう。


これが疲れた。


しかし、ばい菌が歯の付け根の奥の方にまで入り込んでしまい、そこで悪さでもし始めたら、アレである。「その痛み、放っておくととんでもないことになりますよ(たけし風に読んでくださいね)」である。


頭は完全に文系で、理系とくに医学系の知識なんてゼロなものだから、とにかく悪い方へと勝手に想像を暴走させては、ひどく落ち込んだりするのが得意である。だから、このばい菌がやがては頬から脳にまで達したら、最悪脳膜炎とかになって死ぬのではないか。そうなったら『ほんとは恐い家庭の医学』のネタだよなあ、などと思いつつぐったりと疲れて歯医者から帰ってきたのであった。


やれやれ。



昨日のI/O

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『問題発見力と解決力/小林裕亨・永禮弘之』
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