なぜ小泉さんは安倍さんを?


「しっかり」ーー発する言葉とは対照的なと目のひょろひょろした動き


安倍新首相の就任演説で印象に残ったこと。何回繰り返すのだろうと数え始めて20回めぐらいやめたのだけれど、やたら「しっかり」という言葉の好きな人だなと思った。もう一つ、印象に残ったのが安倍さんの目である。どうも落ち着きがないというか、ひょろひょろしているというか。ついこの間の日曜日、朝のテレビに、安倍首相の仕掛人ともいわれる中川秀直氏が出ていた。この人の落ち着きぶりと、どうしても比べてしまう。


中川氏といえば、愛人との写真問題で一時は政治生命を絶たれたかに見えた人物だ。あれが6年ぐらい前のことだったはずで、当時の中川氏はとても軽い人物に見えた。おそらく愛人問題を起こした(つまらない)人といったバイアスが、相当にかかっていたのだと思う。おかげで、中川氏の本質を見誤った人もたくさんいたのではないか。私もそうだ。


ところが日曜のテレビでの田原総一郎との会話から受けた印象は、昔とはまったく違う。落ち着き払っているというか、分厚さを感じるというか。田原氏のツッコミにもまったく動じることがない。中国語でいう『大人(ターレン)』の趣である。その重厚さは、次に出てきた小沢一郎さんでさえも少し軽く思えるぐらいのものだった。思えば森首相に抜擢され、さらには小泉前首相にも重用された人物である。当然、凡人にはわからないそれなりの力を備えてはいるのだろう。


そこで一つ浮かんでくる疑問は、その中川氏はなぜ早々と安倍支持を決め込んだのかということ。ついでにいえば、なぜ中川氏ほどの人物が総理候補として名前が挙がらないのかも不思議だ。民主党で前原さんが党首になったときも、やはり同じような疑問を持った。民主党にもほかに人材はいくらでもいるだろうにと。


党首、あるいは総裁、引いては総理になるような人物は、一体普通の人とどこが違うのか。高校・大学と共通してず〜っと年下の一応は後輩にあたり、以前国会議員を務めていた民主党中村哲治さんにお会いしたとき、疑問を直接ぶつけてみたことがある。すなわち、なぜ前原さんがニューリーダーなのか、他の人とどこが違うのかと。しかし彼からも明確な返事は得られなかった。


そう思って歴代首相(といっても私が何となくでもわかるのは田中角栄さんぐらいから後の人に限られるけれど)を振りかえってみると、何となくではあるのだけれど、言葉の重みを感じさせる人が多かったように思う。もちろん、中には例外だった方もいらっしゃるのだが、それでも圧倒的に多数派なのは、重厚感を漂わせていた方だろう。


だからよけいに不思議なのだ。なぜ、安倍さんなのかが。


たとえば安倍さんと福田さんを比べれば、こと『重さ』を判断基準にするならその差は一目瞭然である。福田さんは立候補さえすれば、少なくとも麻生さんや谷垣さんよりは接戦に持ち込めることは間違いなかったはずだし、よもや逆転の可能性だってなかったわけではないのに、土俵に上がりさえもしなかった。


その裏では小泉さんの意向が働いたとも言われている。その意を受けて、中川さんが動いたのだとも。だとすれば、やはり小泉さんが糸を引いているのか。もし、そうならば、やはりなぜ安倍さんなんだろう。


なんだかんだ言われても、個人的には小泉さんはすごみのある方だったと思う。何がすごいのか。小泉さんからは私利私欲のニオイがまったく感じられなかったことがすごいと思う。だから、あらゆる利権構造に対して、あくまでも建前を貫き通すことができた。その潔さが支持されたのではないか。


改革そのものは決して完成していないし、だからこそ理想状態への移行期として格差が社会問題化しているのだと思う。小泉さんが退いた後に、理想を目指す方向性で政府や霞ヶ関が動いていくのかどうかはわからない。だから格差は固定化する方向に行く恐れも強い。


しかし、小泉さんは日本を変えた。自民党議員でありながら、郵政改革の踏み絵を拒む相手に対して「刺客をぶつける」。こんなドラスチックな政治を行った人物はいないし、おそらくは今後も二度と出ては来ないだろう。ことの是非はともかく中国に対して一部の妥協もしなかったのも、かの国との融和を求める経済界に媚を売る必要がなかったからではないか。俗っぽいところがまったくなかったとは言い切れないにせよ、これまた歴代首相の誰と比べても「利権」を感じさせない人物だった。


それほどまでの人物である。安倍首相の重みがいかほどのものかは、熟知していて当然。にも関わらず安倍さんを推した。その理由がわからない。


もしかすると、重みなき安倍自民党が来年の参議院で負けること、その敗北により、小泉首相が任期中についぞ手をつけることのできなかった参議院自民党の改革に決着をつけようとしている。などと想像するのは、あまりにもうがった見方なのだろうか。


あるいは、小泉さんに比べてあまりにも薄い安倍さんを次ぎに持ってくることで、小泉復活待望論がわき起こることを狙っているのか。これぐらいのシナリオは、小泉首相のブレーンなら考えそうなことだと思うのだが。一体、真相はどうなのだろう。



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