Appleに悪夢は再来するか
年間66億ドル(=約7722億円)
マイクロソフト社の売上、ではなくて研究開発費(06年6月期)である。ものすごい額だ。これに対してAppleの研究開発費は05年度で、その12分の1にしかすぎないという(日本産業新聞10月2日)。ガリバーと小人の争いみたいなものである。
そのマイクロソフトが社運を賭けて(とまでいうと言い過ぎなんだろうけれど)発売するのが、携帯音楽プレーヤー「zune(ズーン)」である。その成否やいかに。これはかなり注目してみておきたい生きたマーケティングケースとなるだろう。その理由は大きく三つある。
まずは「zune」がマイクロソフトの手がけるハード製品であること。いうまでもなく同社は基本的にソフト企業である。その線で行けば本来ならマイクロソフトがAppleに対して出す対抗製品は、携帯音楽プレーヤーではなくiTunesのWindows版となるはずだ。
歴史を振り返れば、AppleがMacという実に優れたユーザーインタフェイスを備えたパソコン&OSを発表したとき、マイクロソフトが取ったのは、自社はソフトに特化しハードは既存の大企業に頼る戦略だった。だから、まずこの点に関してマイクロソフトは少なくとも「zune」に限って大きな戦略転換をしていることになる。それが果たして成功するかどうか。これはマイクロソフトの企業文化とも関わる問題となるだろう。
そして、これが二番めの注目理由になるのだが、マイクロソフトに音楽分野(つまりは趣味の分野)で勝負できるだけの感性があるのかどうか。
ずいぶん以前、中島聡さんのブログ『Life is Beautiful』に次のようなエントリーがあった。
「マイクロソフトとアップルのどこが違うか」という話題になった時に、彼が言った言葉が今でも心に残っている。
「マイクロソフトのプロダクツにはソウル(魂)が無い」
この言葉には本当にまいってしまった。
→ http://satoshi.blogs.com/life/2005/10/post_1.html
そうなのである。WindowsがどれだけMacOSを真似たとしても、Macライクなフィーリングに到達することはついぞできていない。これはどこまでいっても数字が好きなビル・ゲイツと、何よりも人を驚かせたり楽しませたりすることが好きなスティーブ・ジョブズのキャラクターの違いに由来するものだろう。
もちろん金にものをいわせて、そうした感性もマイクロソフトは十二分に研究し尽くしているはずだ。だからiPodも徹底的に分析されているのだと思う。であるならば、その成果が当然「zune」にも反映されているだろう。ということは「zune」は感性を科学的に分析・研究した成果の製品化と考えられるではないか。「zune」は、そんなことが果たして可能なのかどうかを測る試金石でもあるわけだ。
確かに「zune」のサンプル写真を見る限りはiPodに似ている。これがどう出るのか。個人的には似ていると思われた時点で、すでにマイクロソフトの負けじゃないかと思うのだけれど、それはこれからの「zune」の販売状況を見ればわかるだろう。
そして「zune」に注目する三番めの理由は、マイクロソフトがどんなマーケティング、特にプロモーション&流通展開を取ってくるか。日本でWindowsが一気に圧倒的なポジションを占めた理由については、成毛眞氏がその真相を語ってくれている。このとき取られた戦略は、地道に日本を代表する大企業(たとえばトヨタなど)への提供(ほぼ無償?)による採用実績作り(=「あのトヨタが採用して使っているソフトですよ作戦」)戦略であり、プラス販売日のサクラ大動員による話題作り(=打ち上げ花火)戦術である。
とにもかくにもマイクロソフトは、理詰めのマーケティングには非常に長けた企業なのだ。そのマイクロソフトが二番手としてiPodを追いかける時に、一体どんな戦略・戦術展開を取ってくるのか。その狙い、切り口、そして成果はどうなるのか。
Appleに再び悪夢的状況は起こるのかどうか。
アメリカで11月14日、クリスマス商戦にぶつけて発売される「zune」は、今年最大の注目製品だ。
昨日の稽古:
・懸垂