推薦は次世代ビジネスになるか

 
一曲を400項目に分解


メロディー、リズムの強弱など400項目で点数化しデータベースを作る。当然、曲ごとに点数は異なる。逆にいえばある曲の点数が273点だったとき、別の曲が272点なら、この二曲はとても近い構造と考えられる。であるなら273点の曲を好む人は、272点の曲も好きになる可能性が高いだろう。そこで推薦する。


これがアメリカで始まっている『推薦』サービス「パンドラ」である。
http://www.pandora.com/


こうした『推薦』サービスが、『検索』に続く次世代ビジネスモデルなのではないかという記事があった(日本経済新聞10月4日)。


推薦そのものはすでにアマゾンにある。いわゆる「おすすめの商品」であったり、「あわせて買いたい」とか「この商品を買った人はこんな商品も買っています」コーナーである。個人的にはアマゾンで本やCDをよく買うが、こうしたレコメンドサービスに釣られて余計な買い物をしたことはない。なぜなら『推薦』に対するうさんくささや余計なおせっかいをかんじてしまうからだ。


しかし、ある意味では『推薦』が便利なこともわかる。とにかく情報洪水の時代である。正確にはもはや洪水などという言葉もあてはまらないぐらいの状況だ。なにしろ人類史上始まって以来、個人がこれほどの情報に取り囲まれることはなかった。しかも、そうした状況は、わずかにこの10年ぐらいの間に起こっている。これは明らかにパラダイムシフトであり、人間の情報処理能力の進化が、まわりにある情報量の増加具合に明らかに追い付いていない。極めてアンバランスな状況である。


そこで洪水のようにある情報の大海の中から自分に必要な情報を選び出すために創造されたのが検索エンジンだ。これは今のところGoogleにトドメを刺す。


考えてみればGoogleも検索システムではありながら、一種の推薦システムとなっていることは間違いない。とりあえず検索結果に伴って表示される広告は、Googleからの推薦である。推薦順位はGoogleに支払われる広告料金によって決まってくるものの、どんな広告が推薦されるかは検索キーワードによって決まる。


だから「かくかくしかじかの検索キーワード」で情報を求める人には、こんな広告情報がオススメですぜってわけだ。これって推薦だ。


さらには検索結果そのものが、ある意味ではGoogleからの『推薦』情報でもある。どういうアルゴリズムで順位づけがなされているのかはよくわからないが、とりあえず「A」というキーワードで情報を求める人に対してGoogleは、もっとも有益だと思われる情報を順番に提示してくれる。


そう考えれば『推薦』は『検索』にとって替わるものではなく、『検索』の進化形なのかもしれない。が、ここで安易に『推薦』を受け入れるようになってはいけないのではないか。


たとえばパンドラが提供している音楽サービスである。私はビートルズストーンズツェッペリン等をいまだに好むが、パンドラがそうしたバンドの特定の曲に似た曲を推薦してくれたとしても、聞きたいとは思わないだろう。過去にもそんなバンドはいくつか出てきた。いわく「これぞ、第二のビートルズ」だとか「80年代のツェッペリン」などのキャッチフレーズ付きで登場したバンドたちである。そんなのは詰まらないのだ。


では、仮に対象が小説となったらどうか。村上春樹の「風の歌を聴け」を好む人なら、きっと誰々の「なんとか」という小説を気に入りますよ、などと推薦されても、そんなの大きなお世話である。


少なくとも音楽や文学作品に関する限り、新たな出会いは自分で主体的に選択したい(選択した気になりたい)ではないか。もちろん実際には音楽雑誌の記事や書評等を読んで、その情報がインプットされた上で本屋なりレコード屋で対象となる本やCDを手に取っているのだろうが。ただ、その間にはインプットされた情報が熟成するだけの時間があるように思う。この時間による熟成効果が、時間をかけているという意味では『生きている』証とも考えられる。


では、これが新聞、ニュース等の時事情報となるとどうか。クリッピングは使うにしても『推薦』はどうかと思う。まあ推薦とひとくちにいっても相当に幅は広いだろうから、最終的にどの情報を取り込むかは、その推薦の中からの選択になるのだろうけれど。なんか、誰かに(あるいは何らかのアルゴリズムに)よってあらかじめ枠を設定され、その枠の中にはまる情報だけしか接しないようになる、なんてSF的状況はちょっと不気味ではあるよなあ。


初期のネットにあった、いろんなホームページのリンク集をたどっていくうちに、思いも寄らぬサイトにぶち当たって欣喜枝雀、なんてことはもう起こらないのだろうか。こういう時間の過ごし方はムダともいえるが、そうした『遊び』こそが楽しいのであり、そこでの意外な出会いこそが面白いと思うのだが、どうなのだろう。


そんなの面倒くせえ。適当に推薦してもらった情報だけありゃいんだって人が増えているとしたら、それはそれで問題ではないかなどとも思う。


<余談>
Googleが実験的な検索システム『searchmash』をスタートさせている。ちなみに、ここでキーワード『産業材』で検索をかけてみると、なぜか1、2、5位に私の関連記事が表示される。この検索結果はGoogle本体とは明らかに違う。なかなかに不思議である。
http://www.searchmash.com/search/産業材


昨日のI/O

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『健全な肉体に狂気は宿る/内田樹春日武彦
林繁和パティシェ(というか料理人)インタビュー
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