リスクへの備えは


ニューヨークのアパートに小型機が突っ込んだ
http://www.asahi.com/international/update/1012/003.html
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20061012it02.htm?from=top


現時点(10月12日06:50)では詳細はわかっていない。小型機の持ち主はヤンキースの投手だという情報もある。テロかもしれないし、そうではないかもしれない。状況はよくわからないが、少なくとも日本がこの事件から学べることが一つはある。


それはすなわち、もしこれがテロだとして、このようなテロが起こった場合の対処は、どうなるのか、ということだ。リスク管理はできているのだろうか。


もちろんアメリカと比べれば小型機の所有者数は日本の方がはるかに少ないだろう。さらには、その飛行状況も含めて管理体制は日本の方が厳格だと思われる。しかし、仮に某国のテロ組織が小型機所有者を襲撃して、それを飛ばすことに成功したらどうなるのか。そして万が一、その小型機に汚い兵器や生物兵器が積み込んであったら。


などということを考えるのは杞憂なのかもしれない(個人的にはあり得ないことだと思いたい)。しかし、核実験に対する経済的制裁を行えば「宣戦布告とみなす」といった談話を北朝鮮は出している。宣戦布告とみなしたからといって直ちに正面切った戦争状態にはならないはずだが、局地戦を展開してくる危険性は捨てきれないのではないか。


大げさに考えるなら、そもそも拉致自体が日本に対する局地戦ともとれる。相手は徹底した自己正当化で理論武装した国のこと。国際世論はまったく通じず、ということは国際的な常識も、全世界でおおむね通じる合理的な考え方ともかけ離れた基準でしか物事を考えない国である。経済制裁に対しては、対日制裁で以て対応すると考えても何の不思議はない。


窮鼠猫を噛むのたとえもある。追いつめられた北朝鮮が国際社会に何らかの示威行為にでようとした場合、その対象としてどこに狙いを定めるだろうか。


韓国は一応、同胞である。中国、ロシアに武器を向けることも考えられない。もっとも憎しみを抱いているのはアメリカなのだろうが、直接何かのアクションを起こすには遠すぎる。もっとも手近で、しかもそこそこには恨みつらみを感じており、さらにはもっとも防御が弱い国。それは日本ではないのか。しかも日本に対する攻撃をかければ、その効果は宣伝面も含め抜群ではないか。戦略的に考えれば、日本を狙うのがベストオプションの一つのように思える。


国際的な世論が北朝鮮制裁に一気に傾いている。日本政府はここをチャンスとばかりに、これまでの鬱憤をはらすかのように制裁決議の音頭取りをし、さらには今回の核実験とは本来まったく次元の違った話しである拉致問題安保理での決議事項に持ち込もうともしているようだが、ここはじっくりと考える必要があると思う。


たとえば政府が検討しているらしい独自制裁となる臨検などをやれば、相手がどう反応するかを考えているのだろうか。相手の反応が読めないから弱腰でいいという話ではまったくない。こちらが相手への対応を変化させるのだから、それに伴って相手の動きも変わってくる。そこを読んでおく必要がある、ということだ。


さらには今回の強硬な措置が安倍新首相のアピール材料とされている懸念もある。つまり強攻策が、いま、このタイミングだからこそとる対北戦術である恐れだ。これが安倍首相就任後2年ぐらい経っていて、安定政権に入っていたとすれば同じ対応を政府が取るのかどうか。


いうまでもなく外交政策は、国内状況だけを判断基準にされては大きく対応を誤ることが多い。今だからやる、別のタイミングだったらそこまではやっていない。これは極めて冷静さを欠いた思考であり、リスキーだと思う。


もちろん拉致問題は一刻も早く解決すべきであるし、前述したように堂々と民間人を拉致していく行為自体が、日本に対する局地戦の展開である。これに対しては断固とした対応が必要なことはいうまでもない。


そうした状況すべてを踏まえた上で、あえてリスクを取るならそれはそれで戦術の一つではあるだろう。しかし、その場合でも政府は、今回の措置がどれぐらいのリスクを読んでいるのかを明らかにすべきだし、もう一つ、決定的に重要なポイントは、そうしたリスクを取ることによって何をリターンとして得ようとしているのかをはっきりと示すべきだと思う。


それが戦略思考だと思う。


<補足>
勝手に深読みするなら、アメリカや中国は日本に向けて北朝鮮を暴発させるオプションだって戦略の一つとして読んでいるじゃないんだろうか。もちろん、そんなことになった場合には世界は大混乱に陥るわけだが、だからといってオプションの一つとしては、それを読まないことは選択肢を狭めることになる。特にアメリカの場合は、自国に対して核ミサイルが飛んでくることも想定した対応をまず間違いなく考えている。日本政府もそれぐらいの戦略思考は持っているに決まっていると楽観したい。



昨日のI/O

In:
第一ファインケミカル社取材
Out:
Relation84号・原稿

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