プリンターはなぜあんなに安いのか


オールインワンプリンターが、なんと3,980円
http://www1.jp.dell.com/content/products/category.aspx/printers?c=jp&cs=jpdhs1&l=jp&s=dhs


なぜかSafariではアクセスを拒否されてしまったが、DELLのサイトではびっくりするような値段でプリンターが売られている。そんなんで採算が立つのか、といえばプリンター単体では当然ダメだろう。3980ではどう考えても赤字のはずだ。


では、なぜそんな価格で売るのか。トータルで採算が取れるからだ。これを『ジレット・モデル』という(『なぜ、あの会社は儲かるのか?/山田英夫・山根節』日本経済新聞社)。


ジレット・モデルとは有名な話で、日本風にいえば「損して得取れ」モデルである。すなわちカミソリメーカーのジレットは、あえて採算度外視の価格でひげ剃りのホルダーを売りだした。安さに釣られて、みんながこのホルダーを買う。もちろんホルダーだけでは髭を剃ることはできないわけで、カミソリの替え刃が必要になる。


そして、ここがポイントなのだが、ジレットのひげ剃りホルダーに合う替え刃はジレット製しかない。つまりひげ剃りホルダーの安さに釣られてジレットを選んだユーザーは、その替え刃については選択の余地がなくなる。するとホルダーが壊れない限りは、ジレットは安定した替え刃需要を見込むことができる。


替え刃にしたところで売価はそれほどするわけではない。だからユーザーは、そんなものはどこのメーカー製であろうと気にすることはない。つまりジレット製のホルダーを選んだ時点で、ジレット製の替え刃を買い続けることが決まったようなものである。


ところが売価はそれほどでもないが、替え刃の原価などは量産効果もかなり効いてくるから、実はタダみたいなものだ。逆にいえば替え刃が売れればジレットは丸儲けになる。だからホルダーを安くしても全然、元は取れる。


これとまったく同じモデルがDELL(というかほぼすべてのプリンターの)ビジネスモデルである。


そもそもビジネスモデルとは何かといえば、利益を継続的に得る仕組のことだ。ユーザーとの関係でいえば、ユーザーが満足する価値を提供して、それに見合った対価を得るシステムのことである。ひげ剃りモデルの場合でいえば、ユーザーが得る価値とは、すっきりと髭を剃れることである。この価値を認める代わりにユーザーが支払う対価が、イニシャルコストとしてのホルダー代プラス、ランニングコストとしての替え刃代となる。


おそらく価値/対価のバランスでみれば、対価の割合が大きいのがこのジレットモデルといえるのではないか。しかし、もともと替え刃の価格自体がそれほど(高い安いを意識するほど)のものではないので、誰もそこには疑問を抱かない。かなり考えられたうまいビジネスだと思う。


プリンターもまったく同じ。DELLのプリンターにはDELLのインキしか使えないようになっている。そして、このインキがくせ者なのだ。ちなみにプリンターをお使いの方は、ざっとでいいから計算してみればいい。プリンターの価格と、これまでに使ったインクの総額である。


私が使っているのはキヤノン製のカラープリンターで、これはもう5年ぐらい前になるが確か4万円ぐらいだった。そして替えのインクカートリッジが一色だいたい1000円である。それほど頻繁に使うわけではないので、感覚的にはだいたい一ヶ月に一回の割合で2色分ぐらいのインクを買っている。


すると5年間で使ったインク代は
2,000×12×5=120,000
実に12万円にもなる。


計算してみて始めてわかるのがミソである。だって、そんな計算、普通は誰もしないもの。そして、おそらくこの12万円のインク代の製造原価は1万円にも満たないはずだ。インクのコスト構造などは超・トップシークレットだからあくまでも当てずっぽうの推測でしかないが、それほど外れているとも思わない。


だからDELLは3,980でプリントを売ることができる。サプライ品で利益を稼ぐために、そのサプライ品を買わざるを得ないような仕組を作る。しかもサプライ品の一回あたり単価は、価格が気にならないレベルに抑えておく。このビジネスモデルは、いろんなアイテムに転用が可能である。


昨日のI/O

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『なぜ、あの会社は儲かるのか/山田英夫・山根節』
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