ソフトバンクが開いた禁断の扉


2880円で通話定額


ナンバーポータビリティ制度スタート前夜。ソフトバンクが発表したゴールドプランには「そのタイミングでやるか!」とうならせられた。いつから計画を温めていたのかは知る由もないが、絶妙のタイミングであったことだけは間違いないだろう。


孫さんならではのアイデアというか、ここに来てさらにシェア低下傾向にあるソフトバンクモバイルの一発逆転を狙った捨て身わざというか。


もっともゴールドプランそのものには、かなり細かな注釈がいろいろと付け加えられていて、その内実はまったくの『定額』とはいえない設定になっているようだ。


しかし、携帯電話ビジネスもジレットモデルであることを考えれば、通話料金に定額制を持ち込むことは相当のリスクを覚悟の上でのことだろう。携帯電話機がなぜ、タダ同然だったり、本来のメーカー価格からみれば考えられないような価格で手に入るのか。それはとりあえずハードを提供してしまい、あとはサービス料(つまり通話料、データ通信料ですね)で稼ぐことができるからだ。
http://d.hatena.ne.jp/atutake/20061014/1160777294


ちなみにドコモのデータを見ると
端末機器 売上:約4700億円→仕入原価:約1兆1300億円=6430億円の粗損失
通信サービス料粗利:約2兆8000億円
販管費:約1兆4000億円

営業利益:約8300億円
(『なぜ、あの会社は儲かるのか?』日本経済新聞社、2006年、62ページ)


このビジネスモデルの生命線は、通信サービス料で稼ぐ粗利にかかっている。さらに恐ろしいことには、このモデルでは売上が減ったとしてもサービスに関する仕入原価は下がらない。これは通信事業の特異性による。通信サービスを提供するためのコスト(人件費とインフラコスト)は、基本的に固定費である。固定費は売上に伴って増減したりはしない。


ということはサービス売上高の低下は、営業利益低下に直結する。もしも売上高4兆3000億円に対して19%の値下げ(=営業利益分)をすれば、それで利益はゼロになる。


携帯ビジネスで通話料定額などの価格破壊を行うことは、本来はタブーなのだ。その禁断の扉を遂にソフトバンクが開けてしまった。シェアトップのドコモには遠く及ばず、さらにはナンバーポータビリティ制度導入に伴ってauにも引き離されることが予想されるソフトバンクにとっては、価格競争に持ち込むしか打ち手はなかったのかもしれない。


何もしなければじり貧から完全な負け犬へと落ちこぼれていくことは明らかである。しかし価格競争に打って出るには、その背景に万全の資金体制が伴わなければならない。だから基本的には価格競争は強者の戦略ではないのか。


ソフトバンクボーダフォン買収ですでに巨額の資金を使っている。その結果、携帯事業そのものが証券化されている。本来なら証券化の対象となっている事業で博打を打つことは禁じ手でもあるはずだ。というか債権者が許すはずもないと思う。そこを抑えるための細かな注釈付きゴールドプランになったのだろう。


しかし、まだうねりは小さいとはいえ、ソフトバンクが投じた一石は、今後確実に広がっていく波紋を生んだ。


少なくともユーザーの意識には「通話もやがて定額になるはずだ」としっかりとインプットされた。ドコモが自分で自分の首を絞めるような戦略を取るとは思えないが、いま好調なauは戦略的に価格破壊に出る手はある。ソフトバンクとの体力勝負ならauは圧倒的に優位なポジションにいるはずだし、ここでドコモが価格競争に参加してこなければ、一気にシェアを伸ばす絶好のチャンスでもある。


ドコモからはシェアをかっさらい、ソフトバンクの体力低下を誘う。ソフトバンクが端を開いた価格競争、結果的に漁父の利を得るのはauではないのだろうか。



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