男の顔の魅力


アテネオリンピック銀メダリストである。


しかも20年をかけて銅メダルから銀メダルへとステップアップを果たした。何がすごいといって、その20年の間ずっと競技者としてトップに居続けたことがすごい。アーチェリーがどちらかといえば静的なスポーツだとはいえ、これはとんでもないことではないか。


ある機会に恵まれて、面と向かってお話を聞くことができた。話の内容はもちろんだが、そのお顔に惹かれた。40を過ぎると男は自分の顔が履歴書になる、とどこかで読んだ記憶がある。その通りだと思う。


顔に刻み込まれるのは、その人の歴史である、それも内面の。しかもどんな境遇で、どんな苦労を重ねてきたかといった表面的な話ではない。それまでの人生を、どんな心持ちで過ごしてきたのか。それまでに自分にどんな目標を課し、それをどれぐらいの心の強さで達成してきたか。


放っておけば弱くなってしまう自分の心との戦いの歴史が、顔に刻み込まれるのではないだろうか。


その意味ではアーチェリーは、徹頭徹尾、自分との勝負である。もちろん対戦者がいて最終的には相手との評価になるが、競技そのものは自分との戦いだ。的に対してどれだけ平明になれるか。ともすれば単調になりがちな日々の練習でいかに工夫し、常に細かな目標を設定し、自らのモチベーションを高く保ち続けることができるか。


そうした克己の20年間の結果がおそらくは銀メダルにつながったはずだ。しかも山本氏はいまも自分が進歩しているのを感じるという。


歳を重ね、視力などには衰えが来ている。それでもアーチェリー競技者としては確かな進化を実感するという。その証が競技に完全に集中できた瞬間に訪れる第六感だ。いわゆる五感を超えた第六感に導かれるように矢を射れば、たいがいは真ん中に的中する。そんな瞬間をひしひしと感じられるようになったという。


誰もが到達できる境地ではない。


その昔、川上哲治は投手の投げたボールが「止まって見えた」という。その瞬間には音も何もない世界に入り、意識に映っていたのは止まったボールだけだと。そのボールに自然にバットが出て行き、ホームランとなった。一瞬の間をおいてスタンドの騒然としたざわめきが蘇って来た。


道を求め続け、その道に自分を捧げ、ひたすらに努力を重ねる人だけが達しうる境地なのだと思う。めざす道が何であれ、そういう域にまで達した方はおそらくみな、同じような表情をされているのではないだろうか。


そして、そうした人たちにもう一つ共通するものがある。笑顔の優しさだ。


ほんの一歩でも、いや半歩でも、そうした人たちに近づけるようになりたいと強く思う。


昨日のI/O

In:
『「マトリックス」で考える人は仕事ができる/野口吉昭』
Out:
山本博氏インタビューメモ


昨日の稽古: