世界一と世界初のPR効果


重さ百万分の一グラム


といってもおそらくはピンと来ないだろう。とりあえずひと粒の米粒(米粒ですよ)の上に千個(あるいは数千個)は乗ってしまうぐらいの小ささだ。ものは歯車である。これほど小さくとも歯車の歯はきちんと5本はある。直径わずかに0.147ミリ、もちろん世界一小さい歯車だ。


一体、どこにそんな小さな歯車が使われているのか。iPodか携帯か、はたまた何か特殊な産業装置、実験研究設備・・・。世の中にはすごい世界があるものだと思えばなんと「実はこの歯車の使い道はまだありません」だと! (日経産業新聞11月20日)。


なんともあっけらかんとしたコメントを出しているのは、樹研工業・松浦社長である。同社のメイン事業は精密小型プラスチック部品成形。そこで自社の技術力をアピールするために、誰にも頼まれていないのにチャレンジしたのが世界一小さな歯車作りだった。


この百万分の一グラムの歯車作りに使われるのは、独自に開発された射出成形機と精密金型。熟練工などの手をわずらわすこともほとんどない。そのサイズはまさに技術力の証である。


しかしである。世界一小さな歯車を作ろうと思えば、それ相当の設備投資も必要になるはず。そんな投資をしてまで作った歯車に引き合いが来なければどうするのか。投資対効果はゼロになってしまうのではないか。


もちろん松浦社長には確固とした勝算があった。


実は同社が世界一にチャレンジするのは、これが初めてではない。1999年にも重さが十万分の一グラムの歯車を開発し、世の中(といっても限られた世界ではあるけれども)をアッといわせている。それまでもっとも軽かった歯車が一万分の一グラム、それを一挙に10倍も軽くしたのだから当然注目を集める。


発表後、その十万分の一グラム歯車に対する発注こそなかったものの、自動車メーカーからの受注を取り付けた。そしてスピードメーター用歯車が同社の売上全体に占める比重は20%に上っている。十分にもとは取れているのだ。


この十万分の一グラム歯車の開発費がいくらだったのかはわからない。しかし、それが新たな収益源を産み出す起爆剤となったことは確かである。その後も百万分の一歯車開発にチャレンジしていることから考えれば、おそらく十分な投資対効果はあったのだろう。


ここで注目すべきは、投資対効果の「効果」として何を基準とするかである。


同社はメーカーでありながら、開発投資の効果をPR効果に求めた。確かに世界一、世界初といった製品・技術開発は、注目を集める。しかも、これはBtoBの世界である。そうした技術に注目するのは、やはりそれらの技術に関心を持つ研究者であり技術者たちである。


産業材の企業間新規取引を開く突破口は、ここにある。研究開発セクションが「これはいい、すごい、使ってみたい」と考えれば、とりあえずはほぼ無条件で取引の端緒は開かれる。営業がお百度を踏むよりも、はるかに効率的であり、また取引成功の確率が高く、契約条件も有利になる。


もちろん、そんなことはどこのメーカーも百も承知のことだろう。だから、意欲的なメーカーはこぞって、それなりに研究・開発に力を入れているはずだ。しかし、である。樹研工業が他者と決定的に異なるのは、断固として世界一・世界初をめざすスタンスである。


トップ自らがこうした意気込みを持つことで、PR、宣伝以外の効果も生まれる。それは開発者たちのモチベーションアップだ。そのためには技術者が求める機械は、予算の許す限り手当をした。望みうる最高の環境を与えられ、やりがいのわくテーマを与えられたとき人は、その能力を最高に発揮する。


その結果が世界一小さな歯車である。


この歯車を一目みたい、話を聞きたいとばかりに同社には、さまざままメーカーから見学の依頼が相次いでいる。技術開発投資の一次効果がPRプラス開発者のモチベーションアップ、そして二次効果が新規受注。樹研工業の事例は、まさに一粒で二度おいしい投資を地で行く成功事例となった。


PR、宣伝広告効果があり、さらには従業員のモチベーションにもつながる技術開発投資によって最終的には新規受注を狙う。BtoBマーケティングの一つのモデルケースになると思う。


※メリハレ、近未来通信のおかげか、ついに昨日は一日のアクセスが1000を超えた。なかなか、おもしろいというか何というか。


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