値上げ戦術の成功事例


「長崎ちゃんぽん」10%値上げ


リンガーハットが主力メニューの「長崎ちゃんぽん」を値上げした。税別380円を税込み450円へ、単価でみれば70円は大きい。その結果はどうなったか。案の定、定番商品だった「長崎ちゃんぽん」の注文数は一日あたりの店舗平均40%が37%に下がった(日経MJ新聞12月20日)。


看板メニューが売れなくなって、リンガーハットはどうしたか? 「えらいこっちゃ」とあわてた、わけではない。それどころか「しめしめ」の「うししし」だったという。ここに価格戦略の妙味をみる。


つまり「長崎ちゃんぽん」が落ち込む代わりに、価格帯が少し上の「とくちゃんぽん」の注文率が1.5倍ぐらいに伸びた。これは同社の狙い通りの結果なのだ。


顧客心理をとても巧みについた値上げ戦術だと思う。客の心理としてはリンガーハットは「長崎ちゃんぽん=380円、安い、うまい」である。ところが店に行ってみるとそれが値上げされている。「オットー」と思ってメニューをみれば、あと60円出せば、その名も「<とく>ちゃんぽん」なるものが用意されているではないか。


どっちにしたってワンコイン(=500円)である。それなら、その『とく』ちゃんぽんとやらを食べてみようかと。知らぬ間にリンガーハットの思うように誘導されてしまうという仕掛けだ。これはあえて看板商品の「長崎ちゃんぽん」を捨て駒に使う作戦といってもいいだろう。


そして、記事に書かれていなかったが「とくちゃんぽん」の方が魅力的に映るような仕掛けも何かなされているのかもしれない。原価率がどうなっているのかはわからないが、おそらくは「とくちゃんぽん」の方が利益は高いはずだ。うまいですね、なかなか。これなら客離れもほとんど起こらないだろうし。


もう一つ、値上げの成功事例がある。スターバックスである。

「魅力ある店づくりを強化するコストと今後想定される人件費の高騰に備え、値上げします」
日経MJ新聞12月20日


スタバは真っ向勝負の値上げ宣言に出た。が、既存店客数、売上高ともに前年対比増となっている。なぜか。スタバに取って代わるだけのスペースがないからだ。要するにスタバは代替が効かない。店舗によっては高校生のカフェ図書館と化しているところもあるようだが、まだまだその雰囲気を凌駕するだけのカフェはない、ということなのだろう。


コーヒーの味、店作りなどはスタバを真似ることはできても、スタッフ教育から醸し出される独特のアトモスフィアは一朝一夕に真似のできるものではない。そして、この強みを読めているからこそスタバは値上げ戦術を取ることができる。


定番商品をおとりに使って、ワンランク上のプライスゾーンへと自然に顧客を導くリンガーハット戦術、絶対的な強みを武器に正面突破作戦で値上げを成功させたスターバックス。いずれも練り込まれたマーケティング戦略がバックにあってのこと。よく考えられていると思う。


昨日のI/O

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DIME/1月9日号』
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