マンガの敵はケータイだった


この10年で4割減


壊滅的な打撃を受けているのがコミック雑誌である。06年の販売部数は95年比で4割減、部数にして8億冊(これでもすごい数字だとは思うが)に落ち込む見通しだ(日経産業新聞12月21日)。


そういえば最近、電車の中でマンガを読んでいる人がめっきり少なくなった。特に若い人たちがそう。彼らがマンガを読む代わりに何をやっているか。ケータイである。といっても電話でしゃべっているのではない。たいていがメールであり、ゲームである。確かにこれだとマンガを読みながらは無理だ。なんとコミックとケータイが、若者の時間消費に関してトレードオフの関係になっていたのだ。


コミック雑誌の出版社にとっては、まさかケータイが自分たちのライバルになるとは思いもしなかったことだろう。そう考えると、ケータイがいかに人のライフスタイルを変えているかがみえてくる。要するにケータイは、人の時間の使い方を決定的に変えてしまったのではないだろうか。


もとよりこのあたりの事情はインターネットにもそっくりそのまま当てはまる。ネットも確実に、かつ決定的にライフスタイルを変えた。というか、この表現では本質を言い当てられていないな。むしろネットはもっと根源的な何かを変えたというべきなのだろう。大げさにいえば、生きることの意味をくつがえしたとでもいえばいいのだろうか。


ともかくネットがすごいのは、人が一生の間に出逢える人の数を等比級数的に増やしたことだろう。ここでいう「出逢う」とはもちろんバーチャルな出逢いを含めてのことだ。自分がこうやってブログを書き、メルマガを出し、さらにはブログとは別のホームページを開いたりしていると、出逢いの多さをひしひしと感じる。


もちろんバーチャルな出逢いからリアルな出逢いへとつながるケースも多々ある。ネットがなければ、これまでの人生46年間で出逢えた人はいまの10分の一(もしかしたら百分の一)以下だったんじゃないだろうか。しかもネットを本格的に使いだして、まだ10年も経っていない。つまり私にとっては三十代半ばからの体験に過ぎないが、今の十代や二十代の若者にとっては、物心ついた頃からネット付き合いが始まっていたことになる。一体この先、彼らが平均して生涯に何人の人と出逢うことになるのか。


人と出逢い、人とコミュニケートすることが、生きる意味の中でも大きなポジションを占めているとすれば、彼らの人生は、これまでの人類が経験したことのない領域へと踏み込んでいくことになるのかもしれない。


そんな彼らの時間の使い方は恐らく、これまでのティーンエイジャーとは根本的に質の異なるものとなるだろう。そして、ついこの間のエントリーでも書いたように彼らにとってはネットとはケータイでアクセスするモノである(→ http://d.hatena.ne.jp/atutake/20061218/1166388676)。


そのケータイが定額で使い放題になり、しかも高速化が進み、さらにはもはや携帯電話などという限られた用途しか想像できないツールではなく、それさえあれば生きていけるぐらいの多機能化を遂げた。肌身離さずケータイを持つ習慣が所与のものとなり、今や常にケータイの画面を見ることが当たり前となっている。


実際に見たわけではないが、たぶん大学生等は講義中にもケータイを見ている時間が教授の話を聞く時間と同じぐらいの割合になっているのではないか。中学生はまだしも、高校生でも授業中にケータイを見ている率は時間配分にして10%は超えているんじゃないだろうか。


というぐらいにケータイに親しんでいるというか、ケータイアディクトはたまたケータイジャンキーな世代が、今の十代、二十代だろう。だとすれば、彼らがコミック雑誌を見限るのはむしろ当然とさえいえるのではないか。


ただ誤解すべきじゃないのは、コンテンツとしてのコミックが見限られたわけではないということ。ケータイで見ることができるコンテンツとしてコミックを再ポジショニングするなら、復活の可能性は大いにある。以前のように電車に乗ったらとりあえずマンガ状態だった時代とは獲得できるシェアは大幅に減るだろうけれど。


ここで興味があるのが、彼らの使うケータイの時間配分だ。メールは他者とのコミュニケーションである。コミュニケーションというからには能動・受動の両要素が入り交じったものとなる。一方で音楽やゲーム、あるいはコミック等はすべて、基本的に受動である。能動、受動の意識モードのバランスをこれからの人たちはどうとっていくのだろう。この配分もたぶん、20世紀の人間とはまった違ったレイヤーで考える必要があるはずだ。


とりあえず若い人たちの時間をケータイがこれからどんどん分捕っていくことは間違いない。これは明らかな事実として認めるべきで、その上でケータイコンテンツの一つとして、どうやって生き残っていくのかをコミックはじめエンターテイメント系コンテンツは真剣に考えるべきタイミングに来ているのだと思う。


次にやってくる超・強力なケータイコンテンツがYouTubeモバイルであることは、ほとんど確定的だろう。だとすればこれに勝てるコンテンツは一体何があるのだろう。


昨日のI/O

In:
『ひらめき脳/茂木健一郎
晏子宮城谷昌光
Out:
藤山直美インタビューメモ

昨日の稽古:

・レッシュ式腹筋、腕立て、馬歩站椿