時間を買うことはできるか


30分500円の仕事部屋がある


近鉄特急である。学園前〜難波間、西大寺〜京都間がちょうどこれに当たる。朝晩のラッシュ時はともかく、昼間なら号車を選べば一車両にほぼ一人状態。ノートパソコンを開いて、原稿を書くのにちょうどいい空間となる。車両編成によっては、個室に近い空間を確保できることもある。


このとき必要となる対価500円(実質的にはネット経由でチケットを買えば10%ディスカウントされてさらにお得)と、それによって得られる価値のバランスは、自分にとって明らかに価値>対価となっている。


これを個人的には『時間を買う』ことだと考えている。


もとより生きている時間をお金によって伸ばすことは、今のところできない。厳密にいうならば、お金をかけて検査したり、あるいはどこかに異常が見つかった時もお金にものをいわせて最高の医療を受ければ、ある程度の延命は可能かもしれない。とはいえそもそも限りある人生を無限に伸ばすことは、いかに金持ちでも現時点では無理だ。


だから「時は金なり」なる諺が産まれたのだろうし、人にとって何より貴重なリソースは時間と決まっているのである。


時間を買うことは基本的にできない。ただし、お金をかけることによって時間の中身をある程度変えることはできる。その典型的な例が移動時間だと思う。たとえば営業マンにとっては、クライアントを訪問するための移動時間は普通はムダな時間でしかない。ところが移動中に伝票処理や書類作成できれば、あながち完全にムダとはいえなくなるではないか。


「そうはいわれても、車を運転していれば何もできんじゃないか」といわれるなら、移動中をインプット時間にあてることならできるだろう。英会話を聞いたり、あるいはいろんな講義を録音しておいて聞くことぐらいはできるはずだ。アイデアマンなら(「アイデアは移動距離に比例する/高城剛」のだから)、ICレコーダーを回しておいて、アイデアのぶつぶつメモを録音しておくという手もある。


電車で移動できるなら、車の中でできることはほとんど全部できるはずだし、条件次第では車内を仕事空間にすることも可能だ。30分ぐらいまとまった時間を確保できそうで、指定席やグリーン席を取れるなら、それぐらいの投資は試してみてもいいと思う。


その意味では新幹線の中は今のところ、移動時間をもっとも有効に活用できる空間だろう。それも「のぞみ」ではなく、少し時間に余裕を持って「ひかり」を選べばさらによい。これまた最近では号車+座席を細かく指定できるようになっているから、空いている号車の3人席を選ぶ。これでかなりの確率で3時間弱の快適仕事空間を確保できる。


さらに生産性の高い仕事をする自信があるなら、プラス4600円ぐらいの投資でグリーン車を使う手もある。昼間の「ひかり」のグリーン車なら、これも相当に高い確率でまわりに人が来ない席を選べるし、そうなればより快適な仕事空間を得る可能性が高い。これだと時間単価にして1500円ぐらいの投資である。費用対効果を考えれば納得できるだけの価値を得られる可能性は十分にある。


と考えれば納得いかないのが飛行機の料金設定だ。たとえば成田〜ロンドン便を使うとしよう。この場合エコノミーのディスカウントチケットが8万ぐらいだとすれば、ビジネスクラスは安いチケットでも50万はする。乗っている時間がだいたい10時間ぐらいだとするなら、時間単価にしてその差は4万2000円。


残念ながら今の自分には、時間あたり5万円もの価値生産は難しいのでビジネスクラスは諦めるしかない。が、逆に考えるなら、たとえば一本10万円ぐらいの原稿を1時間ぐらいでサラサラと書けるようになれば、プラスそれぐらいの注文をいつも5本ぐらい抱えているような売れっ子にもなれば、飛行機はビジネスでという話もあり得るのだろう(なんてことは、たぶん一生ないだろうけれど)。


昨日のI/O

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『私家版・ユダヤ文化論/内田樹
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