一休さんが開いた世界
登録ホテル数930、一日あたりPV6〜8万
高級ホテルに特化したネット予約サイト『一休.com』。同社は東証マザーズ上場を果たし、06年3月期の営業収益が18億7100万、これを28人の従業員であげている。ちなみに営業利益は11億7700万、営業利益率は約63%にもなる。
税引後の当期利益でも6億9600万、これは営業収益の37%にあたる。37%といえば、普通の企業なら粗利率としても超・優良企業にランク付けされる数字だけれど、それを税引後の当期利益として確保しているお化け企業が株式会社一休というわけだ。
まったくよけいなお世話だけれど、これだけの高収益企業だけあって従業員一人あたりの平均年収も飛び抜けて高い。平均年齢が32.7歳にして、平均年収は817万円もある。うらやましい限りです、はい。
では、なぜ一休さん(=一休.com)は、これほどまでにとびっきりの優良企業となったのか。そのもっとも大きな理由は、マーケティングの大原則STPをきちんと考えたからということになるだろう。
まずセグメント。ホテルのネット予約が普及しだしたのは90年代後半のこと。先鞭をつけたのは『旅の窓口』だ。旅窓が狙ったのは、ビジネスユースである。だから、提携ホテルもビジネスホテルから、もう少し下のランクぐらいまでだった。
もちろん、これでも十分に画期的ではあった。ビジネスマンの出張といえば行き先が決まっている人なら定宿に泊まり、そうでない場合はたいていは会社の総務あたりから旅行代理店に頼んでもらって適当なホテルを見繕ってもらうしか選択肢はなかった。
ホテルぐらい気に入ったところを選びたいと思っても、そもそも選択する手段がなかったのだ。そこへ登場したのが『旅の窓口(=旅窓)』である。このネット予約サイトのおかげで、いろんなホテルがいろんな価格の部屋を抱えていることがわかり、空室状況もわかり、さらにはそのホテルに泊まった人のコメントまでを知ることができるようになった。
便利なことこの上なく、しかも予算と好みに応じたホテルを自分で選ぶことができる。ホテルサイドにとっても、空き部屋を効率的に埋めることができるのでメリットが大きい。いわゆるwin-winの典型のモデルであるために一気に旅窓は成長した。
当然二番手、三番手グループが登場する。ところがその中でも一休さんは、ビジネスホテルとは違ったセグメントに目を付けた。それが高級ホテルである。敷居が高いのである。安売りも、原則的にはしないのである。であるが、高級ホテルとはいえやはり空室は困るのだ。というか空室を出すぐらいなら、ディスカウントしてでも埋めた方が、それだけ収益は上がるのである。
だから恐る恐るといった趣きながら、少しずつ一休のサイトに加わるホテルで出て来た。といってもそうは簡単な話ではない。おそらくは最初の百件ぐらいまでを囲い込むまでの一休営業マンの苦労は、想像を絶するものだったのではないだろうか。
が一休のうまかったところは、ターゲットとポジショニングの取り方にあった。
まずはターゲット。安サラリーマンは決して狙っていない(結果的には掘り出し物をゲットする人はいるとしても)。といって高級ホテルの宿泊費を丸々経費で落とせるエグゼクティブクラスを相手にするのでもなく、その一つ二つ下の階層、おそらくは大企業から中堅企業クラスの部課長レベルをまず狙ったのだと思う。
これは出張経費プラス少しのアルファぐらいで、こうした高級ホテルに泊まれるなら泊まってみたいと考えるレベルの人たちだろう。そうした人たちに、このクラスのホテルに泊まってもらえれば、プライベートユースでも泊まってもらえる可能性がある。もちろん正面切って予約すると高く付くが、一休を使えば少しは安くなるといったイメージを植え付けることができる。
さらには旅窓やその後追いででたベストリザーブとは、明らかに一線を画すポジショニングを取った。サイトデザインを見ればすぐにわかるように、高級感をしっかりキープしているのだ。「これぐらいのイメージなら」と登録するホテル側としても安心できる。
そうやって認知度が高まってくると、たぶん次はお金持ち層がこの『一休.com』を利用するようになったのではないだろうか。お金持ちは実はお金にはうるさいのである。使う時にはど〜んと使うけれども、節約できるお金は少しでもケチるのがお金持ちになる秘訣である。
そうやってお金持ちが泊まってくれるなら、ホテルサイドとしても客層が落ちたり乱れたりするリスクを軽減できる。といった循環がうまくまわって、今や株式会社一休は超・高収益企業となった。のだと思う。