学力のチャイナクロス


全授業の15%が英語


中国は清華大学でのお話。清華大学といえば北京大学と並んで、日本の東大・京大に当たるようなトップ校である。この清華大学では新入生全員に対して夏休みに一ヶ月間、英語漬けの合宿特訓も課せられるそうだ(奈良新聞1月12日)。


そこまで英語に力を入れるのは、これからの世界像についての明確な読みがあるからだろう。これに引き換え日本の大学はどうなっているだろうか。以前、まだ野口悠紀雄先生が東大の研究所におられたころ、取材に伺ったことがある。そのとき野口先生が嘆いておられたのは、日本では東大といえども最先端の金融理論をまともに学ぶ環境ではないということだった。


何が問題かといえば英語の文献が揃っていないこと。すなわち最新鋭の金融理論についての情報がない。だから「ためにする」学問としての金融理論を学ぶことはできても、現実的に市場の最前線で使える金融理論を日本で研究することはできない。「遅れている、だから金融マーケットで日本は海外勢にいいようにされているのです」と野口先生はおっしゃっていた。


だからといって東大生全員が軒並み英語をできないなどと暴論を吐くつもりはない。けれどもこと英語に関しての平均的な学力レベルを比べるなら、東大と清華大学では大きな差が付いていることも否定できないだろう。


しかも清華大学ではまだまだ英語での授業を増やす予定らしい。ときに清華大学は全寮制である。その上、教授も9割がキャンパスに住むという。学生も教授サイドも勉強する/させることに対してど真剣なんだろう。学生の勉強時間がどれぐらいになるかは想像するしかないが、おそらくは東大生の平均的な学習時間と比べれば大きな差が付いていることだろう。


そこまで勉強する学生が揃っているから、清華大学には米国のハーバード大学マサチューセッツ工科大学が、大学院生候補をリクルートしにやってくるという。ハーバードやMITの方から学生をスカウトしにくるなんて話は聞いたことがない。少なくとも日本では、そんなことはあり得ないのではないか(もしかしたら、日本でもごくごく一部の極めて優秀な学生については、研究室の先生推薦みたいな枠があるのかもしれないけれど、とりあえず自分にはまったく関係のない話だし、自分のまわりにいた学生でそんな恩恵にあずかった奴がいるという話も聞いたことがない)。


ともかく清華大学にはそれぐらい優秀な学生が揃っている。だから卒業生の25%は海外の大学院に留学するという。そんなことが当たり前のようにできるのは、いうまでもなく英語での授業に平気でついていけることも理由の一つとなっているはずだ。


もとより清華大学にしろ北京大学にしろ超エリート校である。その競争率は日本の東大よりはるかに高いことだろう。何しろ中国は日本の15倍ぐらいの人口を抱えているのだ。18歳人口をとってみても、やはり日本の10倍は軽く超えているだろう。競争率だって高くなって当然である。


しかも中国では勉強することは、出世するための、あるいは富を得るための最適かつ最も効率的な手段の一つとして広く認知されている。勉強だけは貧しくてもできる。国の制度で保証されてもいる。親も親族一同も応援する。だからみんな極めて真剣だ。恐らくは勉強に対する取り組み方が、日本の大学生とは根本的に違う。


このままでは(というより、すでに現実となっているのかもしれないが)学力でもチャイナクロスが起こるのではないだろうか。


これが何を意味するか。近い将来、日本の唯一の砦であった付加価値創造力でも中国に抜かれるかもしれないということだ。もちろんトップクラスの大学生の(平均的な)学力レベルが日本のそれを超えたからといって、直ちに日本の工業技術力を中国が凌駕することにはならないだろう。技術力の背景には、厖大な時間による蓄積効果がある。これまで地道な努力で技術を積み上げて来た日本を、いくら中国といえどもそう簡単に抜くことはできない。


しかし、このままではいずれは抜かれるリスクがあることだけは間違いない。特に技術の蓄積効果より革新的な発想が求められるITの先端分野などでは、早い時期に中国が日本を抜き去ることも考えられる。


全学生、あるいは大学生対象人口の平均的な学力レベルの話をしているのではないのだ。国を引っ張っていくようなトップレベルの学生の話である。そんな学生の絶対数はおそらく日中の人口比ほどには差がないはずだ。にも関わらず、学力レベル×学生数(=総学力数、みたいな指標ですね)で計算してみれば、すでに中国に圧倒的な差を付けられつつあるのではないか。


この期に及んでゆとり教育だなんだと言ってる余裕は、日本にはないはずなのだが。しつこいようだけれど、将来にわたる日本の安全保障は、人材にしかない。もう少し正確にいうなら、人間の創造力で世界をリードしていかない限り、日本はエネルギーも食料も買えなくなる。今からなら、まだ間に合う。子どもをしっかりと教育することが、日本の最重要課題だと思う。


昨日のI/O

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昨日の稽古:富雄中学校体育館

・基本稽古
・ジャンプ/膝抜き
・回し蹴り稽古
・ミット稽古(二本連続の回し蹴り)
・縄跳び大会