多品種微量対応モデル


売上高材料費率30%


大阪のバネメーカー・東海バネ工業の数字である。バネ業界の平均的な売上高材料比率が70%といえば、同社の数字がいかに型破りなレベルにあるかがわかるだろう。


材料費率が低いということは、利益率が高いということ。その結果どうなるか。バネはプロダクトライフサイクルでいえば、すでに完全な成熟市場となっている。当然メーカーの利益率は低くなる。メーカーの淘汰も起こる。ところが同社の売上高『経常』利益率は10%に達している。粗利じゃなく経常利益がですよ。


なぜ、そんなにも高い利益率を得られるのか。東洋バネは非常識なビジネスモデルを創造したからだ。これを称して『多品種微量』対応モデルという(日本経済新聞1月25日)。


たとえばとっくの昔に生産が終了した業務用アイロンのバネを「たった一本だけ欲しい」といった注文に対しても、喜んで即応する。対応するのは小物だけじゃない。原発で使うような巨大なバネだって注文があれば応じる。


その結果

東海バネには純正品の生産が終了していたり、製造が難しい特殊なバネの注文が集まる。平均注文個数はわずか五個。注文社数は年間千社。
日本経済新聞1月25日)

まさに効率経営のまったく逆を行く非常識経営である。


同社の非常識ぶりは、まだある。多様な注文に即時対応できるようにと腕利き職人を集めた。いうまでもなく人件費アップにつながるはずだ。とっておきの製造手法を惜しげもなくサイト上で公開する。技術流出などまったく恐れていないかのように。


しかしである、同社の非常識は、すべて顧客価値創造のための非常識である。ここがポイントだ。生産が終了したバネ、たった一本の注文に応じてくれるメーカーなど、日本全国探してもここだけしかないだろう。ということは、同社はバネのことで困っているありとあらゆるユーザーにとってOnly Oneな存在となっているわけだ。


いってみればバネに関するトラブルの駆け込み寺である。何しろユーザーは困っているのだ。たった一本のバネのトラブルのために動かなくなっている機械を抱えているケースが多いのだから。そんなときのバネは単なるパーツではない。困っているユーザーにとっては、そのバネこそが死命を決する最重要ファクターなのだ。


そう考えれば、同社の提供するバネは顧客にとっての問題解決となっていることがわかるだろう。これぞまさしく『ソリューション』というわけだ。つまり同社はバネというパーツを提供する単なるメーカーではなく、顧客のバネによるトラブルを解決するソリューションプロバイダーなのである。


顧客とすれば東海バネに支払う対価は、バネ一本に対してではない。自社のトラブルを解決してくれることに価値を認めての対価である。すなわち単なるパーツ代、バネ代ではない。


こうしたメカニズムを東海バネは創りだした。だから多品種微量対応などという非常識なビジネスモデルで利益を出せる。もちろんほかにもさまざまな経営努力を地道に行っている。たとえば

微量の注文も細かくデータベースに登録し始めた。現在では一度でも注文があったバネはすべて再生産可能だ。

まず待たせない。注文があると即座に受注の可否を返答。二十四時間以内に見積りを出す。
日本経済新聞1月25日)


こうした努力が実を結び、年間千社ものユーザーからの発注につながっている。これぐらいの発注数があり経常利益率10%ぐらいの利益を確保できれば、腕利きの職人を抱えても十分に回して行けるだろう。


非常識な経営、すなわちほかのどこもやってない経営イコール強烈な差別化になるというわけだ。ポイントはソリューションである。


そして、ここからは少し宣伝になるのだけれど、問題解決のカギはやはり顧客の不平・不満・不満足にある。まずは顧客が自社に対して何に満足していないのかを探り出すこと。あらゆるソリューションは、ここからスタートする。


「じゃ顧客の不満をどうやって知るんだ」と関心を持たれたなら、ぜひ、こちらをご覧あれ。
http://com-lab.com/NewFiles/ceresearch.html


昨日のI/O

In:
ポルタ取材
Out:
某社・インタビュー原稿フィニッシュ


昨日の稽古: