学習塾と格差社会


市場全体は前年比0.5%減、上場19社は5年で約1.5倍


学習塾市場である(日経残業新聞2月14日)。市場全体が縮んでいる中で、大手有名塾の寡占化が進んでいる。市場の背景となる子どもの数自体も減っている。いうまでもなく少子化である。一方、私立中学校は減ってはいない。むしろ、微増ぐらいの傾向にあるはずで、中学入試そのものはやや広き門となっているはずだ。


そうした状況の中で、名門中学校をめざす層が増えているということだろう。そして難関校への合格率の高い塾に子どもが集まっている。


そこで

人気の高い有力学習塾の業績は軒並み好調。早稲田アカデミーの07年3月期の単独経常利益は前期比69%増と大幅な経常最高益を見込む。中学から大学受験まで展開する市進も。中学受験部門の好調で07年2月期の連結経常利益が同24%増え、経常最高益を更新する見通しだ。
(前掲、日経産業新聞


この記事には興味深いグラフが添えられている。小学校卒業者数、首都圏での受験率を示すグラフで、卒業者数が底に近い02年度ぐらいから受験率は上がり始めている。それが「ゆとり教育開始」とリンクしていることを示唆する表示となっている。


このグラフから何が読みとれるか。ゆとり教育に対して何らかの危機感を持った保護者が「このまま、公立中学校へ子どもを進ませるのはまずいのでは」と考え受験させるようになったとも読める。


さらに深読みするなら、そうした保護者とはどんな人たちかを考えてみればよい。小学校、中学校での教育の大切さをあるていど、わかっている人たちだろう。功利的にいえば勉強することが将来に有利だということを理解している人たちだ。すなわち、自分も中学校ぐらいから勉強してきたおかげで、それなりのポジションにいる人たち、格差社会のどちらかといえば上の方に位置する人たちだと思う。


格差は小学校から始まっていることになる。内田樹先生の『下流志向』には、すでに小学校時代から学習放棄に努力する子どもたちのいることが書かれていた。そうした子どもたちがいる片方には、そのような子どもたちと一緒に学ぶことのリスクを感じ、違う学校(頂点が有名私立中学になる)へと子どもを進ませる親がいるということだ。


その受け皿として大手学習塾が機能している。ある意味では格差社会を拡大、固定化する機能を学習塾が果たしていることになる。


私事になるが、つい先日中学・高校の同窓会が開かれた。母校は一応、関西ではトップクラスの進学校とされる。自分たちが受験したのは36年前の話で、昔話をしていると小学校の時は塾なんか行ってなかった奴が、結構いる。今では考えられないことだ。そんな時代だったといえばそれまでだけれど、いま塾に行かずに合格できる子どもがいるとはほとんど思えない。それぐらい中学の入試問題は難しい。


問題自体が難しいことに加えて、受験者のレベルが高くなっている。だから塾へ通って、そうした問題を短時間で解く訓練を積んでいないと、いくら本質的な地頭のよさを持っている子どもがいたとしても、入学試験=他の子との比較競争では勝てないだろう。つまり塾へのニーズは限られたターゲットの間ではあるが、明確にある。そのニーズをいかに汲み取るかが勝負になる。


大手学習塾としては、いったん「あの塾はいい」という評判が立つと、そこで拡大再生産の循環サイクルに入れる。つまりある程度以上の学力を持った子どもが集まる→その子たちが切磋琢磨しあう→刺激を受けて能力のある子どもが伸びて行く→合格率が上がる→さらに評判が高まる。このサイクルの中で受験ノウハウ、つまり教え方やテキストの作り込みがブラッシュアップされて行く。こんなメカニズムが働くはずだ。


だからまずは最初の関門突破である。つまり何としても合格者を増やさなければならない。この時期、塾のチラシを見ていると、大手の塾は○○中学校に○○人合格といった特大の見出しが目立つ。その表現を見ていると、いろんな言い方があるものだとか、コピーライターも大変やろなとか思ってしまうのだが、ともかく「うちの塾では今年、これだけの生徒が、こんないい中学校に合格しました」と印象付けるためにあの手この手で必死になっている様子がよくわかる。それは「評判こそがすべて」の世界だからだろう。


そうやって、勉強する力をある程度持っている子どもたちが塾→<受験>→私立中学へと進んでいくとなると、公立中学校へ進むのはどんな子どもたちが多くなるのかも自明の理。格差社会の始まりは、たぶん小学校の半ばぐらいからにあり、それは長ずるにつれて徐々に不可逆性が増していく。最初のカギは小学校4〜5年生ぐらいで塾へ通うかどうか。日本がそんな社会構造になっていることを、塾マーケットが示しているように思う。


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