マスコミに自浄力は?


騙す。隠す。シラを切る。責任転嫁して黙りを決め込む。


「お前は子どもか」といいたくなるぐらい関西テレビの対応がとんでもない迷走ぶりを見せている。正直なところ関テレの首脳陣は、現状把握能力を失ってパニックに陥っているのだろう。だって、まさか『身内の』マスコミがまるで手のひらを返したかのように、自分たちに集中的に石を投げるような態度に出るとは夢にも思っていなかったはずだから。


今回のねつ造問題を最初にとりあげたのは、確か毎日新聞だったはず。その時点で関テレ首脳陣は、まさかここまで身内から叩かれることになるとは予想できなかったのだと思う。そりゃ、マズいことになったぐらいの認識はあっただろう。


しかし、たかがちょっとコメントを意図的に替えたり、データをいじったりしただけのことではないか。そんなのほかのテレビ局だっていつもやってること。もちろんばれちゃったのは「運が悪かった」んだから、謝んなきゃなんないけれど、といったところだろうか。


ところが、ことは予想外の展開を見せる。なぜかわからないが、毎日新聞が珍しくがんばっちゃった。同じ関西エリアを地盤とするメディア同士なのに、あるいは、だからというべきなのかもしれないが。いつもよりちょっとしつこく追求した。


そして、ここからがたぶん10年前とは違う展開だと思うのだが、毎日新聞の報道がネットに火を点けてしまった。多くのマスコミにとってはおそらく想定もしていなかった状況へとヒートアップしていく。そうなると他の(テレビ局を系列に抱えている)新聞も取り上げざるを得ない。


朝日はじめテレビ局を抱える新聞の社説は、なかなかの名(迷)文が多かった。それはそれは論説委員としてもさぞ書きづらかったことだろう。下手なことを書いて、後で自分たちと関係するテレビ局の問題が暴露された日には目も当てられないことになるのだから。万一そうなった場合にも何とか言い逃れるような社説、つまり一般論、建前論のオンパレード、みたいな感じだろうか。


しかしいったん火が点いた連鎖反応は急加速を始める。ここに到っては本当ならあまり突っ込みたくないはずの同業のテレビも無視するわけにはいかなくなる。政府としても何らかのコミットが求められる。


この一連の、しかも急激な動きの背景にあるのは、間違いなくネットである。旧来の体制であれば、今回の関テレの様な事件を他のマスコミが大々的に取り上げるのは、ある意味自殺行為である。だから、テレビ局を抱える新聞が自ら進んで報道することはまずなかったはずだ。仮に新米記事がそんな記事を書いたとしても、デスクの判断で握りつぶされるのがオチだ。


またテレビ局と関わりのない新聞が取り上げたとして、後追い報道に火が点くこともまず考えられない。だってほかのマスコミが報道さえしなかったら、一般大衆が知ることもないのだから。マスコミが報道しない、イコール存在しないも同様。それぐらいの力をマスコミは持っていた。それでことは穏便に、仲間内で処理される。


マスコミは第四の権力といわれる。そして「権力は腐敗する」という不滅の法則がある。だから、そんな隠蔽行為は当たり前とさえ呼べないぐらい日常的なことである。権力に巣くう同じ狢的仲間意識が強いのは、役人、土建屋、みんな同じだ。


ところがマスコミが関与できないメディアが生まれた。インターネットである。このメディアの何より恐ろしいところは、マスコミによるコントロールが一切利かず暴走する点にある。従来ならマスコミが握りつぶそうと考えるニュースは、ニュースとはならない。ほとんどの人がそういったニュースの存在を知らないまま日々を暮らしていた。


ところが今ではたとえマスコミが報道しなくとも、ネットが自発的に情報を展開する。ネット上では連鎖反応が起こる。今回のケースは、キッカケこそマスコミだったが、その後、まさに燎原に炎を広げるがごとく日本中に火をつけて行ったのはネットだ。


その意味でパニックに陥っているのは関テレ首脳部だけじゃないと思う。関テレの会員資格停止を決めた民放連も困惑しているはずだ。とりあえず関テレを糾弾しなければカッコがつかない。関テレには悪いがここは一つスケープゴートになってもらい、何としても自浄能力があることを示さなければならない。しかし、そこに踏み出すことは、それこそパンドラの箱を開けるようなものだ。


すでに他の局の番組でも、ねつ造とまではいわないまでも「ちょっとした疑惑」が浮かんできている。今回の事件にテレビ業界がどんな決着を付けるのか。関テレの図る幕引き法は、などに興味が集まっているようだが、それらはあくまでも表層的なできごとにすぎない。


いま起こっているのはメディアとしてのマスコミの没落ではないのだろうか。言い換えるならネット=集合知とマスコミ=選良知の争いであり、いくら選良を集めていたとしてもネットの背後にある厖大な知には勝てないという事実なのだと思う。


昨日のI/O

In:
『東大生が書いたやさしい経済の教科書』

Out:


昨日の稽古:

・レッシュ式腹筋、腕立て
・スクワット