やめてどうする?


「30歳までに」が6割


転職するならいつまでに、という調査結果(日経産業新聞2月26日)。「転職に後ろめたい感覚があるか」との問いには、38%が「あまりない」16.1%が「全くない」と答えたそうだ。調査対象となっているのは23〜25歳の若手社員の話である。


ということは、入社一年目から三年目ぐらいにしてすでに転職へのためらいのない人が半分はいるということになる。もちろん、この調査で日本のすべての若手社員が「こうだ」とはいえないにせよ、少なくとも転職希望の若手社員が多いことぐらいは確かそうだ。


自分が就職する時はどうだったか。


23年前、京都の印刷ブローカーに就職を決めた時は、二年でやめるつもりだった。やめてインドへでも放浪の旅に出て、自分探しをするつもりだった。今にして思えば若気の至りというか、就職をなめきっていたというか。そもそも当時は学生にとっての超・氷河期であり、しかも一浪一留の身とあっては、なかなか良い就職先は見つからなかった。


さらに文学部ということも不利に輪をかけたようで、一応野球部の先輩などの伝手をたどって就職活動をしてみたものの、どこもアウトである。件の印刷ブローカーに就職を決めた理由は、その会社が女子大生のバイトを雇い、京大のキャンパスでパンフレットを配っていたからに他ならない。


一応、一緒にパンフをもらった連れに、説明会ぐらい行ってみるかと尋ねたところ「それもよかろう」などとぬかしたので、それならオレもと行ってみると、そいつは来ていなかった。入社してから聞いた話では、先方の会社としては何しろ京大生が説明会にくるというだけで、ちょっとした騒ぎになっていたらしい。


説明会場で「本当に、うちに来る気があるのか」と何回も聞かれたことが今でも印象に残っている。そうした次第で入社したわけだから、長居は無用と考えていた。そうは考えていても基本的に根がまじめなので、仕事を与えられるとわりと一生懸命になる。それで誉められる。誉められるとうれしいから、さらに一生懸命になるというサイクルにはまり込んでしまい、結局丸四年勤めることになった。


では、自分の場合はなぜ辞めたのか。


辞めるキッカケは研修である。もっと仕事に全力で取り組めるようにという主旨の研修だったと思うが、そこで講師と一晩、仕事とは何か、やりがいとはどんなものかといった話をしているうちに、どうも今の仕事は違うということに気づいてしまった。もともとやりたかったことは「書くこと」である。インド放浪もでまかせていってたわけではなく、藤原進也のようになりたいなどと、これも惚けた夢を持っていたからだ。


それが結果的には、何とかかんとか書くことを職業にしているわけだから、まあ夢がかなったとまではいえないにしても(芥川とか直木さんとか狙ってたわけだし)、それなりにやりたいことをやれているぐらいはいえるのかもしれない。


ただ、今にして思えば、あまりにも状況反応的に歩んできたなあとは思う。一応プランナーとしてはお客様に「何より戦略がなければダメですよ」などと偉そうなことをいっているのに、若い頃の自分には戦略的な思考はまったくなかった。


戦略とは、ひと言で表わすなら「目的達成のために資源配分を決めること」である。20代の自分が持っていた資源といえば、時間。この絶対に取り戻すことのできない、人にとって何より貴重なリソースを、思えばずいぶんと無駄にしたなあと思う。


30歳までに転職するのは良しとして、どんな転職をするのか。戦略的な転職をする若者が増えれば、日本のこれからはまだまだ捨てたものじゃないと思う。少なくとも会社にしがみついて、そこから振り落とされないために嘘ついたり、悪いことしたりするような無様な生き様を送ることはないだろう。


転職がどんどん盛んになって、それを受け入れるインフラが整備されて、風通しの良い企業社会になることを願う。ついでに公務員の転職もありにしてもらえるともっとよくなるんじゃないだろうか。


昨日のI/O

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真弓氏インタビュー原稿

昨日の稽古