道交法改正の明暗


24%増収vs21%減益


昨年6月、道路交通法が改正された結果、儲かった企業と損した企業があるというお話(日本経済新聞3月9日)。法改正の内容は駐車禁止の取り締まり強化。取り締まり業務を委託された民間企業の監視員が、ちょっとした駐車であってもビシバシと取り締まる。たとえコンビニなどへの納品であっても、運転手が車を離れ、ほかに助手などがクルマにのっていなければ(要するにすぐに車を動かすことができないと監視員が判断すれば)アウトである。


ただちに写真を撮られ、確認証票が発行される。繁華街などではハンディターミナルを持って巡回している監視員を見かけられたことがあるだろう。従来なら警察だけがやっていた取り締まりを、公安委員から認定を受けた監視員がやるようになったわけだ。早い話が、これまでは警察がいろんな業務の中の一つとしてやっていた駐禁取り締まりを、それを専属業務として請け負う民間企業が受け持つようになった。


企業であるからには、その業務で収益を上げなければならない。当然、たくさん駐車違反が行われている場所を重点的に監視することになる。結果的に駐車違反が減れば、それでめでたしめでたしという筋書きなのだろう。


ところでマーケティングを考える場合には、マクロ環境にも目配りが必要となる。専門用語ではPEST分析などというが、政治体制や法体系の変化、あるいは経済状況の変化、さらには社会動向と技術革新などにきちんと目配りをしておかないと、マーケティング戦略を誤ることがあるという話だ。


そこで今回のような法改正は、まさしくビジネスチャンスとなる。


いうまでもなく、従来成立し得なかった新しいビジネス=駐車違反監視業が誕生している。しかし、それだけではない。誰でもわかるのが駐車場ビジネスである。これまでならほんの5分、10分ぐらいなら大丈夫だろうと勝手に思っていた場所でも、いつ何時監視員がやってくるかわからない。駐停車違反となると車種によって異なるが、まあ一万円ぐらい罰金を取られる。それならたとえ200円、300円を払ってでも駐車場に止めた方がいい。


ということで駐車場が増えている。そこで駐車場ビジネスを手がける企業は特需に沸いているわけだ。おかげで都市圏で時間貸し駐車場を手がけるパーク24は、07年10月期の連結経常利益が前期比19%も増える見通しだ。ところが同じ駐車場関連ビジネスを手がけていながら、減益となる企業もある。日本駐車場開発である。同社は07年7月期の経常利益が前期比21%減となる模様だ。


同じ駐車場ビジネスを手がけていながら、増益となる企業がある一方で減益となるところもある。なぜだろうか。根本的なビジネスモデルが違うからである。日本駐車場開発は、自社で駐車場を開発して持つのではなく駐車場オーナーから駐車場を借り上げて運営している。借り上げるということは駐車場オーナーに対する賃借料が発生する。


そこで、この千載一遇ともいえるチャンス(=需要と供給のバランスが一気に変わったわけですね)にオーナーたちが考えるのは、賃貸料(日本駐車場開発にとっては賃借料)の値上げである。強気に出るわけだ。ということで日本駐車場開発としては原価アップということで減益となった。


もう一つ意外なのが、コンビニが減益となっていないこと。コンビニ納品とはいえ駐車違反を見逃してもらえるわけではない。ロードサイドや郊外など駐車場に余裕がある立地はともかく、都心部のコンビニでは駐禁違反を覚悟で路駐するか、コストアップを覚悟で有料駐車場に停めるかしかない。いずれにしてもコストアップ要因になるはずである。


ところがセブン&アイグループなどでは、全社的には21%増と最高益となった。これはもちろんコスト増加分を吸収するだけの売上増となったことが最大の要因だろう。とはいえ駐車場関連のコストについても、トラックの配送ルート効率化を徹底して、できる限りコストアップを避けたことも効いているという。駐車違反取り締まり強化をテコとして、配送ルートの見直しを徹底した結果、従来の配送システムのムダをカットできたというわけだ。


もともと徹底したドミナント出店方式をとり、物流システムの効率化を図っていたセブングループでも、まだムダを削り取り余地があったということ。そのムダをさらにスリム化するチャンスとして、今回の法改正を利用している。うまいなあと思う。


このようにマクロ環境の変化、とくに法律改正などは、ビジネスモデル創出や、既存ビジネスでもシステム改変のビッグチャンスとなる。ということで、これから絶対に注目しておくべきは、やはり環境関連だろう。京都議定書で決められたCO2削減目標を日本が達成するためには、相当に思い切った施策をとらなければならない。環境関連、省エネ関連での法改正の動きは要注意である。



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