着物が売れる?


10年で半減、5年で3倍


着物マーケットでおもしろい現象が起こっている。半減したのは呉服の小売り市場、一方で三倍に伸びているのは同じ呉服の古着市場だ(日本経済新聞3月11日)。


その古着マーケットでも対照的なビジネスモデルを展開している大手二社がある。新装大橋が90年から展開する『ながもち屋』は、全国で約40店。商品は持ち主から預かって販売する委託販売形式だ。ちなみにこの新装大橋は京都の呉服問屋さんである。大昔、得意先として印刷物を納品に行ったこともある老舗である。


方や東京山喜が展開する『たんす屋』は、全国で110店。こちらは古着を買い取り、専門業者を使って新品同様にきれいにしたうえで販売する。07年5月期には小売りベースで売上高45億円を見込むまでに伸びている。この売上高はおそらく古着マーケットの15%ぐらいのシェアになる。


『ながもち屋』と『たんす屋』は好対照なビジネスモデルである。『ながもち屋』は委託販売なので、基本的にノーリスク。これは呉服業界の伝統的なビジネスモデルでもある。一方で『たんす屋』は買い取りリスクだけでなく再生リスクも取っている。あくまでも推測だけれど『たんす屋』の方が大きなリスクを取っている分、利益率も高いだろう。


ここでおもしろいのは、なぜいま、たとえ古着とはいえ着物マーケットが伸びているのかということ。なぜなら、以前着物の販促に関わっていたときに、マーケットが縮む最大の要因は女性が着物を身につけなくなったから、というのが定説となっていたからだ。もしかしていま、着物の着用機会が増えているということなのだろうか。


着物はそもそも着付け自体が面倒である。というか、たいていの人は自分一人で着ることができない。だから子どもの入学式や結婚式などに着物で出かけようとするなら、美容院に行って着付けをしてもらわなければならない。もちろんタダではない。だから着物は身支度にもコストをかけなければならない。


そこまでして着物を来て出かけようという機会は、それほど多くない。しかも、着物は慣れない人にとっては、とってもやっかいな装いでもある。洋服とは根本的に構造が異なるために動きが著しく制限される。ましてたいていの着物は洋服とは比べ物にならないぐらい高価でもある。だから、もし汚しでもしたらと考えると、よけいに動きがぎこちなくなる。着物姿で一日を過ごそうものなら、すごく疲れるのだ(このあたりは自分で体験したことはもちろんなく、伝聞ですけれど)。


もとより母親や祖母あたりが普通に着物を着ていた姿はおぼろげではあるけれども記憶に残っているので、一昔(正確には三昔ぐらい?)前の女性にとっては、着物は日常着のひとつであり、自分で普通に着付けることができるし、着物姿だからといって特に動きが制約されることもなかっただろう。要は慣れの問題なのだ。


ということぐらいは呉服マーケットに関わっていた20年ぐらい前にもわかっていた。だから呉服の販促では、いかに着用機会を増やすかがテーマであり、そのためには着用機会提案をすることが一つの定石となっていた。今にして思えば、ここがそもそも間違っていたのかもしれない。


つまり、当時は着物をやはり特別な機会の装いとして捉え、その特別な機会をどれだけたくさん提案できるかが勝負、みたいな思考パターンに陥っていた。STPで考えてみれば、セグメントはあくまでもフォーマル市場であり、ターゲットも高い着物を買えることは大前提として、着物の維持、着付けなどにお金をかけることが平気な層。そしてポジショニングとしては、やはり高い・良い・素敵といったところだろうか。


これではいくら機会提案をしても、その提案を「あっ、これは私に向けられた話なんだ」と思ってくれる女性は圧倒的に少数派となる。せっせと情報誌を作ってはみたものの、その情報誌が流通するのは注文をもらっている呉服問屋からその先の小売店経由のルートしかない。つまりは、すでに呉服を持っている少し裕福な層にしか流通しない。ようするに情報自体がマーケット拡大に役立つものではなく、しかもその情報は既存顧客の間でしかりゅうつうしていなかったことになる。


これが現状との最大の違いだ。


いま着物を着る人が増えているのは、日経の分析によればネットがキッカケとなっているようだ。つまり着物に関する情報がネットによって以前とは比べ物にならないぐらい増えた。しかも、その情報は着物にちょっと興味があったり(たいていの女性は、着物に一応の関心は持っている)、あるいは思い切って買ったり着てみたりした人が、ブログを書いたり、着物にファンサイトに投稿したりといった情報が多い。


これは20年前にこちらが勝手な思い込みで編集・発信していた情報とは、切り口がまったく違う。実際に着てみた人の率直な話は、おそらく多くの女性が共感できる内容となっているのではないか。しかもそれは着物に対する実体のない『高いハードル』感を崩すものとなっている可能性も高い。


そこへ持ってきて、着物自体がリサイクルマーケットでは安く買えるようになった。着付けだってやり方次第では簡単にできることも理解されるようになってきている。


いわゆるファッションのサイクルと比べれば、うんと長いスパンになるのだろうけれど、そろそろ着物に興味をもつ女性が増え始めてもおかしくはない。そう考えれば「日本の品格」だとか「うつくしい日本」といったわけのわからないブームにも、何となく着物姿はフィットしそうな感じがする。といったことが背景にあっての着物ブームだとすれば、何もリサイクルだけが売れるわけではないだろう。


新品でもリーズナブルな価格とメリットが明確な商品であれば、売れる可能性は高い。とすれば、たとえば「エビちゃん」「もえちゃん」あたりが着物をオススメしたりすればブームになることだって考えられる。もしかしたら『AneCan』で近いうちに着物特集が組まれたりするかもしれない。呉服マーケット、要注意である。



昨日のI/O

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K-OPTI副社長対談ラフ原稿

昨日の稽古:西部生涯スポーツセンター

・組手立ちでの基本稽古(複数の敵を想定して)
・ミット稽古(複数の敵を想定して)
・組み手稽古(一対二で)
・組み手稽古
・補強