先生の犯罪


あまりにひどい。


違反行為と知っていたが、絶対発覚することはないと確信していた。選手から13日になって「(金銭授受を)まったく知らないと言っていたが、実は知っていた。正直に話す」と言われ、自分も話すことを決めた(毎日新聞3月15日)。


西武球団の不正裏金問題で、早稲田の選手が高校時代に在籍した専大北上高野球部副部長(同校の教諭)が、こんなふうに答えたようだ。この副部長さんをつかまえて「あんたのような人は教師失格だろう」と糾弾するのはたやすい。そうやって、この先生を社会的に抹殺すれば、それでスカッとする人もなかにはいるだろう。


だが、それで何かが解決するのだろうか。今回の事件が、どれだけ多くの人に深刻な影響を与えているかを、なぜかマスコミは報道していない。もしかしたら気づいてさえいないのかもしれない。しかし今回の一件はプロ野球あるいは高校野球のイメージダウンといった問題だけには、絶対にとどまらない。それぐらい深刻な影響を子どもたちに与えていはしないだろうか。


しかも、その影響はほとんど決定的ともいえるだけのひどいダメージとなる可能性が高い。もちろん、たとえば大きくなったらプロ野球の選手になりたいと思っていた小学生が、自分が進もうとしている道がそんなに薄汚れたものだと知ってショックを受けた、といった極めてナイーブなケースもないことはないだろう。しかし、今どきの小学生はもっとしたたかである。だからことはもっと深刻なのだ。


大人が平気で嘘をつくこと。ばれなきゃ悪いことをしていいと思っていること。万が一バレたときは、まずは逆ギレしてみせること。それが効かないぐらい自分が不利だと思えば、とりあえず徹底的にシラを切ること。どうしてもシラを切り通せなくなったときだけ、頭を、それも形だけ下げればいいこと。等々を今どきの子どもはちゃんと学習済みである。


こういう風潮というか空気みたいなものに、子どもはとても敏感だ。だからたとえ新聞を読んでいなくとも、テレビの表面的な報道を見ているだけで、子どもの素直な感性はものごとの本質を感覚的につかみ取る。


つかみ取りはするのだが、まだ信じてすがりたい部分もたくさん残している。子どもたちにとってのヒーロー、ヒロイン神話はかろうじて健在だ。もっともわかりやいのがスポーツの世界だろう。スポーツの世界は勝ち負けがはっきりとしている。才能に加え、努力が認められ、そして裏がない世界。スポーツ選手に嘘つきはいない。そこに一抹の希望が残っていた。


しかし、そのスポーツを取り巻く世界でさえも実のところは真っ黒だった。


そんなもんか。じゃ、そういう世界で生きていく覚悟を決めないと「損することになるな」と。今回の一件を機に多くの子どもたちがそんなふうに考えるようになりはしないか。彼らの背中をどんとひと突き、決定的に押したのではないかと危惧するわけだ。


いまどき先生が正義の味方だなどと信じている子どもは、まずいないだろう。先生だって悪いことをするのが当たり前。そんな先生の話がテレビにも新聞にもあふれてる。「教師は聖職者なんだよ」なんていっても「せいしょくしゃって何ですか?」と聞き返されるのがオチだ。が、それでも子どもたちにとっては先生は先生なのだ。信じたいと心のどこかで思っているはずだ。


が、その先生がはしなくも「ばれなきゃ(絶対に発覚することはないと確信していた)悪いことをしてもいい(これが不正であることは認識していた)」とカミングアウトしてしまったわけだ。しかも「選手が告白すると言ったから(嘘をつき通せないことが明らかになったから)自分も言うことにした」だと!


仮にこの先生が、問題が表沙汰になった時点で直ちに「申し訳ないことをした。とんでもないことをした。私が悪かった」と真っ先に自ら謝罪していれば、どうだっただろうか。


またお金を渡した西武は、それが一人の野球少年の未来を永遠に閉ざしてしまいかねないことをどれだけ理解していたのだろうか。「将来ある青年の未来のために名前は勘弁してください」と西武球団の太田社長は会見で述べていたが、お金を渡した時点で、その青年の未来を取り返しがつかないぐらいに損ねたことは自覚できていなかったのだろうか。


「嘘をついちゃだめだよ」「どうして?」
「悪いことしちゃだめだよ」「どうして?」
「悪いことをしたら謝らないとだめだよ」「どうして?」
いま、子どもからこんな質問を受けてきちんと答えられる大人が、どれだけいるのだろう。


エリートでなくていい。ノブレス・オブリージェなんて面倒なことも考えなくていい。せめて「嘘ついちゃダメ」「悪いことしたらダメ」「悪いことしたらちゃんと謝らないとダメ」ぐらいは、きちんと自信を持って言える大人でいたい。



昨日のI/O

In:
レヴィナスと愛の現象学内田樹
Out:
『えきペディア』事業説明書原稿
NPOミーティングアジェンダ

昨日の稽古:西部生涯スポーツセンター

・基本稽古
・型稽古(太極一・平安一)
・ミット稽古
・受け返し稽古