本歌取り


クレイジーケンバンドである。カッコいいのである。


「今ごろ、なに言うたはりますのん」というツッコミは勘弁いただくとして、昨日、珍しくケーブルテレビをぼよ〜んと眺めていると、このバンドが出てきた。めっちゃええやん、とびっくりした。日本のヒットポップスカウントダウン100とかのプログラムである。


この先は、オヤジのボヤキとして流してもらっていいのだけれど、それにしても出てくる出てくるバンド、みんなうまい。何が、どう、うまいかといえば、みんな見事に自然にこなれているのだ。


思い返せば31年前、BOWWOWがデビューしたとき、渋谷陽一さんが異常なぐらいに興奮して「このバンド、どこの国のバンドか、わかりますか。まあ、聞いてください」なんてアナウンスとともにかけた、たぶん「Heart's On Fire」にぶっ飛んだ記憶がある。ブリティッシュ系でQueenかSilverHeadの兄弟分みたいなバンド、と思ったら日本人だったと聞いて、もう一回ぶっ飛んだ。みたいな。


あれから三十年経って、日本人の血の中にポップス、ロック、ファンク、パンク、さらにはラップまでもが消化されてきたんだなあと、つくづく思った。クレイジーケンバンドもだけど、カウントダウン100に出てくるバンドがみんなうまい。


「えっ? オッサン、なに言うとんねんって!」
ツッコミはわかるけど、もう少し付き合ってくだされ。


クレイジーケンバンドを聞いたとき、すっげぇと思ったのだ。思いながら、どっかで聞いたニオイがあるとも強く感じた。これは確かに自分が昔好きだったテイストだと。で、記憶をたぐってみると『KOKOMO』に行き着いた。75年にイギリスでデビューしたバンドで、『Average White Band』のイギリス版みたいな言われ方を当時してたと記憶する。が初めて聞いたとき「実は全然違うやん、やっぱりおんなじ白人ファンクでもアメちゃんとイギリス人ではカルチャーバックグラウンドが違うから、解釈が違う。さっすがイギリスは深い」なんてことを思っていた高一時代を思い出したのだ。


ポイントは、ここである。いうまでもなくファンクは黒人が始めたスタイルである。それをアメリカ白人バンド『Average White Band』はうまく真似をした。ファンクのエッセンスをきちんと取り入れた、ぐらいには評価してもいいだろう。が、『KOKOMO』はそれをさらに昇華してみせた。ヘーゲル風にいうなら、ブラックファンクの文法vsホワイトブルーズの文法(ブリティッシュミュージックの文法?)→(アウフベーヘンですな)ブリティッシュファンク、といった案配に。


なぜ、そうしたことができるかというと、イギリス人はファンクもブルーズもきっちりと距離感を保った上で自家薬籠中のものにしており、さらには音楽に関するブリティッシュなバックボーン(って一体何かと問われると困るのだが、ビートルズのルーツにつながるようなもんということでご理解いただきたい)があったからだろう。そこでアメリカ黒人のファンクを聞いて、これをみごとに本歌取りできたのではないかと。これを『黒魂英才』とでも呼べばいいか。


話は長くなったが、BOWWOW以来30年を経て、ようやく日本にも本歌取りできるほどにポップスバックボーンが染み付いてきたのではないかと思うのである。それぐらいにクレイジーケンバンドはこなれていた。これは『黒魂和才』ということになるだろう。


と思って横山剣氏のプロフィールを探ってみるに、1960年生まれとある。なるほど同い年ということね。一般的な音楽のバックグラウンドが変わり新しいものが根付くまでには、たぶん30年ぐらいの時間がかかるのだろう。


そして、三つ子の魂百までというけれど、やはり幼い頃にどんな音楽環境の中で育ったかは、その人の音楽感性に大きな影響を与えるはずだ。横山剣氏は横浜で幼い頃からジャズやボサノバに親しんだとある(→ http://ja.wikipedia.org/wiki/横山剣)。一方こちらは物心つくまでは、父親から演歌(親の血をぉ〜引く兄弟よりも、とか)、軍歌(月月火水木金金、とか)、浪花節(江戸っ子だってねぇ、とか)などをさんざん聞かされて育ったわけで、東海林太郎さんは歌う姿が美しいなあなどと素直に思う子どもだった。えらい違いだ。


長じてティーンズの時代には横山氏と同じような音楽を好きになるところまではいったけれども、方や決してそうした音楽を昇華することができず(好きだったけれども、自分で演ることはついぞかなわなかった)。一方では音楽を生業とし、しかも見事にジャパニーズファンクにまで昇華されている。


ということでクレイジーケンバンド、カッコよしである(今さら、遅すぎるかもしれないけれど)。


昨日のI/O

In:
『図解 ヒートポンプ/田中俊六』
レヴィナスと愛の現象学内田樹
Out:


昨日の稽古