超低温で起こること

atutake2007-03-25



絶対温度73K(マイナス200℃)


寺子屋の子どもたちを連れて、高校時代の友人が教授を務めている大学の物理学研究室へ行ってきた。超低温の世界を子どもたちに体験させてあげるから連れておいでとお誘いを受けてのこと。


超低温状況で何が起こるのか。とりあえず信じられないことが起こる。磁石が浮く。といっても強力な磁石同士が反発しあって浮く、わけではない。片方は磁石ではなく石である。その石に液体窒素をかけて冷す。知らなかったけれど窒素の融点は約63K(-210℃)、沸点は約77K(−195℃)である。


文系の人は、ちょっと「?」かもしれない。ちょうど昨日の自分が、そうだったように。液体窒素といえばターミネーター2である。ほら、覚えていませんか。あの映画の最後の方で液体金属でできたターミネーター2液体窒素を積んだトラックをぶつけて、瞬間的に凍らせる。凍ったところをショットガンで撃って、粉々に吹き飛ばすシーンがあったでしょう。あれです。


早い話が、液体窒素は滅茶苦茶冷たいと。で沸点が−195℃ということは常温の部屋でシャーレに注ぐとその瞬間に沸騰する。沸騰しながら注がれた物体の熱を奪っていく。すなわち冷していく。そうやって冷された石がだいたいマイナス200℃になるというわけ。


石の上に磁石を載せる。常温下では、当たり前のことだけれども、磁石は石の上に乗る。すなわち、磁石と石はぴったりくっつく。というか磁石と石の間に多少の凸凹によるスキマはあっても、磁石が浮くことはない。


ところがマイナス200℃まで冷された石は超伝導状態になっている。超伝導状態とは何ぞや? と尋ねられても、残念ながら答える術を持たない。マイナス200℃まで石が冷やされた状態である、とトートロジーに陥るだけである。


ポイントは、そんなややこしい話にあるのではない。超伝導状態では、信じられないことが起こる、ということをいいたいのだ。


つまり常温下では石の上に乗った磁石が、超伝導状態となった石の上では、空中に浮くのである。あたかもダリの絵のように。なぜ、そんなことが起こるのか。教授は目には見えないが磁力線によるバネのようなものが発生しているからだと教えてくれた。「?」ではあるが、たしかに冷された石の上に磁石を持っていくと、強い反発力を感じる。これぞ、まさしく『フォース』ではないか。


しかも、その空中浮遊している磁石に少し回転力を与えてやると、くるくると回りだすのである。空中の同じ場所で。これには子どもたちもビックリである。「目を輝かせて」なんて表現はいかにも陳腐だと思っていたが、これぐらい不思議な現象を目の当たりにすると、子どもたちの目は本当に輝くのだ。歳取っているがゆえに、いささか濁ってはいるけれども、こちとらだってビックリ仰天状態なのは同じだ。


コイン型の磁石を縦にしてみても、やはり同じように空中浮遊は起こった。あるいは斜めになりながら浮きもした。超伝導、すごしである。


そのあと、超低温の世界では何が起こるのかを少し話してもらった。たとえばバナナを超低温にすると、釘を打てるハンマーのようになること。あるいは薔薇の花を超低温にして外から力を加えると、一瞬にして粉々に砕け散ること。はたまた瞬間的に金魚を超低温に凍らせると金魚は死なず、ふたたび常温の水に入れれば何ごともなかったかのように泳ぎだすこと。


超低温化では生命が、その時間を止めるというのだ。これにも子どもたちはびっくりというかなんというか。「それやったら、オレ、いま冷してもらって百年先に生き返らせてもろたら、ええやん!」と誰かがいえば「そやけど、百年も経ってたら、友だちみんな死んどるで!」と突っ込んだり。


とりあえずは理科の好きな子、興味がある子を誘って連れて行った課外理科教室は大成功となった。


個人的にはヘリウムは決して凍らないという話が、もっとも「?」であった。なぜヘリウムは凍らないのですか、絶対零度でも凍らないのですか、と教授に尋ねたところ、それを理解するためには量子力学を学んでもらわないと、と軽くいなされた。ちょっとくやしい。


ただ、もし、この不思議な実験を中学とはいわず、せめて高校時代に見せてもらっていたら、物理もしくは化学に対する自分の好奇心は、今とはまったく違ったものとなっていただろう。そしてもしかしたら量子力学なるものに興味を持ち、それを理解するために(直接必要なのかどうかはわからないけれども)微分積分ももっともっとまじめに勉強したかもしれない、と思った。


ちなみに教授が量子力学に興味を持ったのが高校一年生のときだという。同じ学校に通っていながら、この落差は一体何なのか、としばし人生の綾を考えさせられもする一日となった。もちろん、彼と同じように高一のときに量子力学の入門書と出会っていたら彼のように日本でトップクラスの物理学者になれた、などと大それたことはまったく思いませんが。



昨日のI/O

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昨日の稽古:西部生涯スポーツセンター

<一般部>
・基本稽古
・ミット稽古(回し蹴り、肘打ち、下段への膝打ち)
・先制して相手の腕を取る、背後を取る稽古
・補強