iPhoneは何台売れるか


今年中に1000万台


Apple社COOの予想である。端末の平均価格が500ドルとして、今年中にiPhoneは1000万台も売れるだろうと踏んでいる(日経ビジネス3月26日号)。本当にそんなにたくさん売れるかどうかはともかくとして「売れそうだ」とか「きっと売れるだろう」と思わせるだけの魅力をiPhoneは秘めている。


日経ビジネスの記事によれば、アメリカでのある調査の結果ではiPhoneを使うために通信会社を変えてもいいという回答が60%にも達したという。ここで注意すべきは、この場合で語られている「通信会社を変える」ことを字義通りに受けとってはいけないことだろう。


通信会社をA社からB社に替えることと、A社製の携帯電話をiPhoneに変えることは同義ではない。いま使っているどの社の携帯電話からであれ、それをiPhoneに変えることは、単に通信会社を変えることとはまったく違う次元の意味をユーザーに与える。今後iPhoneに乗り換えるユーザーのうちどれだけの人が、そのことを意識しているかは別として、いったんiPhoneを使い始めた人が、もう一度「これまでの」携帯電話に戻るのは極めてレアケースとなるだろう。


なぜなら、その答えは簡単明瞭で「iPhoneは携帯電話ではない」からである。ではiPhoneとは、どのように定義されるべきアイテムなのだろうか。ここに多義性を持つところがiPhoneの最大の強みなのだと思う。


IPhoneとは携帯電話であり、iPodであり、携帯ネット端末であり、さらにはAppleコンピューターである。すなわちiPhoneとは電話もできるiPodであり、あるいは電話もできるネット端末である。そしてもっともユーザー数が多くなりそうなのは、電話もできる&携帯できるMacintoshコンピューター(インターネット接続付き)というポジションに魅力を感じる人たちだろう。


未だかつて、こんなマシンは世の中になかったのだ。その一点をもってiPhoneは自らの革命性を担保している。


つまり自らをまず携帯電話の延長線上のマシンとして位置づけ、そこにiPodMacOSを付加していった末に出来上がったモノがiPhoneなのではない。おそらくはハンドヘルドのコンピュータはどうあるべきか、そこにiPodも付けたい。そして「どうせなら、それで電話もできるようにすればいいじゃないか」といった発想から生まれたのがiPhoneである。


だから

「日本メーカーには、あれほど使い勝手に配慮したソフトは到底真似できない」
日経ビジネス3月26日号)

と、松下電器産業の幹部がつぶやくのは当たり前なのだ。だって、日本メーカーが、それほどまでに使い勝手に配慮したソフト(ハードじゃないところがミソですね)を開発したことはついぞないのだから。ソフト勝負であれば、マイクロソフトがいくら真似ようとして超えることができないのも(そういえばiPodもどきのZuneはどうなったのだろう?)理の当然なのである。


ユーザーインタフェイスの開発でAppleは常にマイクロソフトの先を行っている。もちろん、それでもパソコンの世界ではWindowsデファクトを握ってしまったが故に、多くの人がそれに馴らされてしまった。インターフェイスが問題になるのは、慣れるまでである。いったん慣れてしまえば、それが本質的にはどんなに使い勝手が悪いものであったとしても、人は慣れ親しんだものを受け入れる。パソコンのキーボード配列がその典型だろう。


であれば次世代の携帯電話デファクトは、iPhoneが握る可能性が高い。しかもiPhoneには、この手の革新的な新製品の宿命ともいえる初期不良もかなり少なくなることが予想される。なぜなら、iPhone

斬新な商品ながらも、中身は多くの製品で使われている”枯れた技術”の寄せ集め
(前掲書)

だからだ。


Apple社の思惑通りにことが運べば、アメリカでのiPhone発売は今年6月になる見込みだ。そのあと秋から欧州での販売となり、来年はアジアでの展開が見込まれている。日本での提携先はSOFT BANKという声が上がってはいるものの、まだ決まったわけではない。戦略的に考えれば、ドコモ、auのいずれにしてもAppleと組む選択肢は大いにあり得る。


ここであまり取りざたされていないが、AppleからみてiPhoneは日本のどのキャリアと組むのが戦略的に最も有利なのかを考えてみてはどうだろうか。どう考えてもSOFT BANKと組むのが最善の策とは思えない。むしろauと提携しドコモを追い落としに出るのが、もっとも得策なのではないか。


という状況を計算に入れるなら、個人的にはauがもっともあり得る選択肢なのではないかとも考える。いずれにしても、一刻も早い日本投入が待たれるところだ。最悪の場合は電話機能が使えなくても良い。一年後ぐらいのスパンでみて街中でのHOTOSPOTやWiMACSの普及状況なども計算に入れるなら、公衆無線LANにアクセスできるハンドヘルドMacintoshという機能だけでも十分に魅力的だ。


早く出してほしいものである。



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