電話派? メール派?


上限一日150通


一本あたり2分ぐらいで処理できる業務連絡メールに、一日5時間かけられるとしての話(『ascii』5月号)。実際問題として一日のうち5時間もメール処理に使っていていいのかどうかは別として、メール処理が仕事の中で占める割合は大きくなっているのではないだろうか。


仮に部下が7人(マジックナンバーですね)いるマネジャーが、一人ひとりの部下から報告・連絡・相談と3通のメールを毎日、受けとるとすればどうなるか。このマネジャーには部下からだけでも毎日20通ぐらいのメールが飛んでくることになる。


部下からのホウレンソウメールとあれば、返信を書く必要もあるだろう。仮に受けとったメールの半分に一本あたり5分程度で返事を書くとするとこのマネジャー氏は、部下のメール読みに100分、返信に50分。合計で一日150分は部下とのメールに時間を割かなければならない。


ここで二つ疑問が浮かんでくる。その一、メールがなかった時代はどうやっていたのだろうか。その二、メールを使うようになってどんなメリット、デメリットが生まれているのだろうか。


メールがなかった時代には、自分も会社勤めをしていた。その頃のことを思い出してみると、とりあえず毎朝ミーティングをやっていた。これは昨日の業務結果と本日の業務予定の連絡、確認、要するに報告と連絡である。そのときのチームが全部で10人ぐらいで、かかっていた時間がだいたい20分ぐらいだろう。


そのミーティングでの報告内容によっては、マネジャーから「君はちょっと残って」と声をかけられたり、逆にこちらから「お話ししたいことが」と時間をとってもらったりすることがあった。これがいわゆる相談になる。かける時間は内容によりけりだけれど、10分から30分ぐらいだった。それ以上時間のかかる話は他の人間も絡んだ内容になるので、正式に時間をとった会議となる。


これでマネジャーの拘束時間は、二人ぐらいから相談があったとして一日あたり最大で1時間半といったところだろう。あとは外に出ている営業マンが得意先で、急な決断が必要なときなどはマネジャーの判断を仰ぐときがある。そんな時は電話である。こうしたエマージェンシーコールにどれだけ的確に対応できるかがマネジャーの評価基準の一つになっていた。


要するにメールがなくても、十分に仕事は回っていたのだ。
ではメールを使うようになって生まれたメリット,デメリットはどうか。


メリットは大きく三つあると思う。一つはコミュニケーションの中身が充実した(んじゃないだろうか)。対面でしゃべっていると、どうしてもその場その場で思い付いたことしか話せない(誰もがそうだというわけじゃないけれど)。ところが書く行為は、自分の考えをいったん客観視するチャンスを与えてくれる。相手に伝えたいことをブラッシュアップする機会がメールにはあるわけで、これにより伝えたい中身をより整理して伝えられるようになったはずだ。


その二は、相手の時間を一方的、強制的に奪うことがなくなった。電話がかかってくると、とりあえず出ることが最優先のルールである。すると昼間などはひどい話、自分がやろうとしている仕事が寸断されることになる。集中して企画書を作っていて「よしっ、これだ!」と閃いたアイデアを書こうとしているときに電話。集中力が途切れるだけならまだしも、考えていたことを忘れてしまうこともある。これがメールなら自分の都合に合わせて読めるので解消される。


その三は、メールなら証拠が残ること。これで「言った、言わない」問題は解決できる。


ではメールのデメリットはどうか。これも三つあるんじゃないだろうか。


デメリットその一は、コミュニケーション格差がはっきりしてきたように思う。書くのが苦手な人は、コミュニケーション感度が低い人と見なされがちだ。慣れの問題である程度はクリアできるにせよ、そもそも書くことが嫌いな人にとってメールを使わなければならないこと自体が心理的圧迫だろう。となるとコミュニケーション意欲が減退する可能性は否定できない。


デメリットその二は、メールは時間がかかること。書く、となるとやはり人は構えてしまう。仮に書くことが好きな人でも、メールは後々まで残るものなので、書いては書き直しを繰り返すだろう。それにくらべればしゃべる方が時間的には圧倒的に短くて済む(だから中身が薄くなるリスクもあるのだけれど)。


デメリットその三は、メールでは微妙なニュアンスが伝わりにくいこと。面と向かって話していれば「アホやな」のひと言が、非難なのか嘲笑なのか同情なのかはすぐにわかる。ところが滅多にないとは思うけれど、もしメールに「アホやな」と書いてあれば、そのニュアンスの解釈は読み手に完全に委ねられる。誤解されるリスクがある。


それでも、とりあえず仕事上のコミュニケーションは今のところメールが主流だ。IT系企業では、メールからさらに一歩進んでブログ、Wikiメッセンジャーなどにシフトしているようだけれど、これはメールの利点を活かしてデメリットを抑える方向性での進化だろう。


個人的にはやはり電話はつらい。一方的にかかってきた電話に対しては、うまく対応できない。なぜなら、かけてきた相手はそのテーマについていろいろ考えた末に「よし、これで話そう」と気持ちを整えて(ついでに資料も手元に置いたりして)かけてきているのだろうけれど、受ける方がそんな準備はまったくできていない。


これがプライベートな内容なら、時間さえ許せばメールより電話の方がいいし、よりベストなのは会って話すことだ。ということは、これからの仕事コミュニケーションはやはり、会って話して大事なところを決めた上で、細部はメールやその他ツール(WikiやGoogledocsなどがいいんじゃないでしょうか)で詰めて行く。こんな進め方がいいのではないだろうか。



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『私家版・ユダヤ文化論/内田樹
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