ヘッドハントされる人


2005年度、約34万件


ホワイトカラーの流動化が進んでいるらしい。前年対比で約14%増、転職を仲介する企業の手数料収入も増えているという(日経MJ新聞3月16日)。ただし、どんな人でもハントされるというわけでは、もちろんない。


引き合いがあるのは『ゴールドカラー』だという。これがどんな人材かといえば

金融や証券、法務、ITなどの分野で専門知識や能力に加え、マネジメントの実績があり、外国企業の経営幹部と英語でコミュニケーションできる(中略)。
年棒が一億〜二億円と高額で、三年契約が多い。長くて五年契約という例もある。四十歳代のゴールドカラーの成約率が高い
日経MJ新聞3月16日)


四十歳代という条件だけはフィットしているけれども、とうていゴールドカラーにはなれそうもない。というか、そんな奴がどれぐらい日本にいるんだろうか。


少し逆算してゴールドカラー候補たりえるには、どんなキャリアパスを歩めば良かったかを考えてみよう。まず大学ではきちんと勉強しておくことが絶対条件となる。どこの大学でというのは絶対条件ではないが「それなりの」ぐらいの条件はつくだろう。そして理想をいえば、学部は工学系で数理的、論理的な思考力を磨いたうえで、大学院で経済学でも学ぶのがよいのではないか。


卒業後の進路としては、やはりまずは大企業だろう。ただし、そこに長居するのではなく、大企業がどんなものかを身を以て体験することを目的とする。従ってできるならアウトサイダー的というか、とにかくみんなと違う行動、思考を心がけるのがよい。そこで長くて五年ぐらいを過ごした後に(できるなら財務、法務、開発、最低でも営業などについてその企業独自のノウハウをできるだけ多く身に付けておくこと)、ベンチャー系の幹部候補生として転職する。


あるいは転職前に、企業留学生としてアメリカへMBA留学させてもらえればなおよい。ベンチャー(中小企業でもよいが)では、できるだけマネジメントに近いところで人を動かし、お金を動かし、要するに会社を動かす術を学ぶ。この期間がまた五年ぐらいか。


そしてもう一度、今度は外資系に転職する。ここで外国企業の経営ルールを身につけ、同時に英語でのコミュニケーション能力を磨く。これまた五年ぐらい。都合15年ぐらいかけて、ようやくゴールドカラーとしてヘッドハントされる人材になれるというわけだ。なんとも気の長い話だこと。


ただし、この15年ぐらいの時間投資をきちんとやれば、経済的にそれなりに見合う対価を得ることができるだろう。仮に年俸一億の三年契約を三回繰り返せば(四十代なら十分に可能だし、転職するたびに年俸アップも期待できる)、五十過ぎには最低でも十億ぐらいの資産を持つことができる。


というようなキャリアパスは、自分が不勉強で知らなかっただけかもしれないが、23年前にはなかったように思う。もちろんもし知ってたとしても、たぶんその道は選ばなかっただろう(正確に表現するなら選べなかったというべきかもしれない)。


ところがいまの大学生は、そういう情報を得ている。最終目標が五十代で資産十億ぐらいをもってリタイアすることだとしても、短期的には常に面白そうな課題をもって勉強なり、仕事なりに取り組むことができるわけだ。


この状況は20年ぐらい前までの「とりあえず大企業に入って、つつがなく過ごして、それなりのポジションまで上り詰めて、退職金もそこそこもらう。その代わりに人生の大半を、その企業に捧げる」といった生き方に比べれば、うんとエキサイティングではあるし、楽しくもあるだろう。


ここで何より重要なのは、体験を通じてやはり活きた知恵を身につけること。こればかりは、いくらビジネス書を読んでも得ることができない。ちなみにお手軽ビジネス書を読んで、そこに書かれていることを知織化できるためには、二つの条件が必要だと思う。


一つには、やはり学生時代に(今からでも遅くないけれども)難しい本をきちんと読みこなす力を身につけておくこと。これは、どの分野でもいいけれど、お手軽ハウツー本ではなく、専門書をじっくりと読みこなすことでしか養われないだろう。


もう一つは、そのビジネス書に書かれているような状況を、リアルに体験していること。もちろんそんな状況をそのまま体験できていればいうことないが、横展開して応用的に考えられるような体験でいい。でも、そんな体験をしていて、しかも自分で考える力がある人にとっては、そもそもそんなビジネス書から新たに得られるものはほとんどないだろう。


では、ゴールドカラーの条件を満たせそうもない四十代はどうすべきか。今からでも遅くはない。とりあえず自分の得意分野、あるいは興味を持てる分野の専門知識をブラッシュアップすること。その上で自分のこれまでの職業体験を総合的にまとめ直してみて、どこか他人と違うセールスポイントを見つけること。これでシルバーカラー、あるいはブロンズカラーぐらいにはなれのではないか。



昨日のI/O

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『私家版・ユダヤ文化論/内田樹
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