売れ行きはパッケージ次第
B5からA5へ
パソコンソフトのパッケージが小さくなっている。キッカケとなったのは「ビスタ」。一月末にマイクロソフトが(満を持して?)出した新OSは、「XP」よりも一回り小さなサイズのパッケージに納められていた。それがA5だったというわけだ(日経MJ新聞4月2日)。
もちろん「ビスタ」は「XP」をはるかに上回る重装備OSである。いろんな新機能が追加されている。数々の新しい機能をユーザーに使いこなしてもらうためには大部のマニュアルが必要、なはずだったのだが「ビスタ」に分厚いマニュアルはついていない。マニュアルは電子化されている。
印刷物のマニュアルをやめたことは、マイクロソフトにとって大幅なコスト削減効果がある。いくらボリュームディスカウントが効くとはいえ、マニュアルの印刷コストは、相当な額に上っていたはずだ。それを電子化すれば印刷コストは不要。印刷物のマニュアルがなくなれば、ユーザーの利便性がどうなるかは意見の分かれるところだろうが、とりあえず電子マニュアルなら高速検索できるメリットもある。何とか納得してもらえると踏んだのだろう。
ところが「ビスタ」パッケージのダウンサイジングが意外なところに影響を与えているという。すなわち中小のソフトメーカーが苦戦しているというのだ。なぜだろうか。
「ビスタ」のパッケージ小型化に伴って、ソフト流通最大手のソフトバンクBBがソフトメーカー各社にパッケージの小型化を働きかけたからだ。流通サイドにとってもパッケージが小型化されると物流コストを約2割、抑えることができる。が小型化にはデメリットもある。
マーケティングの世界では従来、4Pが大切だといわれてきた。つまりプロダクト(製品)、プライス(価格)、プロモーションにプレース(流通・販路)である。これに加えて最近ではもう一つのP、すなわちパッケージを加えて5Pとすることもいわれている。ことほど左様に現代のマーケティングではパッケージが重要な要素となっているのだ。
ではパソコンソフトのパッケージはどんな役割を担っていたのか。
パソコンソフトがどのようなプロセス店頭で買われていくかを考えてみよう。おそらくは、事前に何の情報も仕入れず、いきなりソフトショップに来て「さて、どんなソフトを買おうか」というユーザーは少数派だろう。やはりパソコン雑誌などをみて「そうそう、こんなソフトが必要だな」とあらかじめAIDMAのメモリーレベルぐらいまでは達している消費者がお店にやってくる。
ところが、そのメモリーはそれほどクリアな記憶として定着しているわけではない。すなわち、たとえば「ウイルス駆除ソフトが大切だな」とか「何でもPDFにできるソフトがあったら便利だな」ぐらいのレベルだろう。ここで製品名までをはっきりと覚えているなら、何も問題はない。しかしそうではない場合は店頭で迷うことになる。
そこでクローズアップされるのがパッケージというわけだ。
ビジネスソフトやセキュリティーソフトは製品特徴を伝えるため、パッケージに機能や動作環境を細かく記している。だが、小型のパッケージでは製品紹介のスペースが十分に取れず、特徴を伝えきれないという問題が生じる
(日経MJ新聞4月2日)
つまりパソコンソフトの場合は、パッケージがある意味店頭POP、ないしはリーフレットの役割を果たしていた。それがサイズ縮小となれば、当然表現できる内容も限られてくる。店頭での訴求が十分にできないために売れ行きが下がる、という流れになっている。
もちろんパッケージで説明できないのなら、他のツールを使う手はある。たとえばPOP、専用じゅう器、説明用DVDなど。特に専用じゅう器を提供すれば販促企画力のないショップには喜ばれるはずだ。ということは、この専用じゅう器を入れてしまえば、かなりな売り場スペースを独占できる可能性がある。
とはいえじゅう器の開発・制作にはもちろんコストがかかる。そのコストに見合うだけの売上を見込める製品ならいいが、そうでない場合はじゅう器コストで赤が出るリスクを抱えなければならない。また大手メーカーのようにいくつかの製品ラインナップを揃えている場合なら、専用じゅう器もそこそこのボリュームとなり見栄えがよく、さらに一製品あたりのじゅう器コストを抑えることもできるが、中小メーカーのように「うちは、この一本だけで勝負」ということになると、そうもいかない。
本当なら、こうした状況にこそアイデアを効かせる手があると思う。ただ現実問題としては、パソコンソフトメーカーの多くが「パッケージデザインの何たるか」について深く考えたことはないだろうし、ましてや「パッケージにお金をかける(販促コストとして考える)発想」もないだろうから、単純に流通サイドから「パッケージはA5に統一するように」といわれて困っているのが現状なんだろう。
ただし、今後を考えるならパッケージメディアはもはや衰退することが確定している。つまりソフトなどはオンラインでのダウンロード販売にシフトすることが確定した未来だろう。であるなら、ネット上で自社製品をどうやってAIDMAサイクルに乗せるのかを考えた方がいいのかもしれない。
とはいえ、だからこそ当分の間はパッケージにこだわる『逆張り戦術』がありだと思うけれど。
昨日のI/O
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