マニアという生き方


全国約2800カ所


日本にあるダムの総数である。単純計算すれば一都道府県あたり60カ所ぐらい。実際にはダムのあるところはかなり偏りがあるだろう。そのタムが大好きな「ダムマニア」が増えているという(日経MJ新聞4月18日)。


ダムマニアとは何か。ひと言で表わせばダムを愛している(というのは大げさかもしれないが)人たちのことである。そのマニアの間にはれっきとしたヒエラルキーが存在する。まず初心者クラスのレベル1は撮影派。この層に属するのは年輩の方が比較的多く、主にダムの写真を撮って楽しんでいらっしゃる。従って写真映えのする観光放流するダムに集まりやすい。


中級クラスのレベル2は学習派である。彼らはただダムを見るだけではもはや飽き足らない。そこでダム内部の見学などを通じて、その構造や機能がどうなっているのかを学ぶのである。さすがに人間は知識欲の塊というか好奇心旺盛というか。


しかしである。上には上がいるのである。上級クラス、レベル3ともなるとダムへの「巡礼」を決行してしまうのである。もはやダムは単に写真を撮ったり、学んだりする対象にはとどまらない。それは神聖なる巡礼の対象となるのだ。もちろん目的地のダムについては熟知していることはいうまでもない。その上で「ダム見学だけを目的に」全国のダムを見て回る筋金入りのダムオタクである。「鉄っちゃん」にならうなら「ダンムちゃん」といったところだろうか。


そうしたダムマニアが作ったサイトがある。その名も実にストレートに『ダムサイト』。2000年に開設されたサイトには、全国1800カ所のダムが網羅されている。各ダムについて貯水量、水系はもとよりきめ細かな情報が写真入りで掲載されているという。その内容の充実ぶりは、ダムを管理する国土交通省の幹部をして「国交省が作っているサイトよりもわかりやすい」といわせたとか。


サイトを運営しているのは、一人のダムマニア、会社員萩原氏である。ふと訪れたダムで見た放流シーンに魅せられた萩原氏は、ダムのサイトをコツコツと作り始める。その結果が6年間で1800ものダムを網羅する膨大なサイトとなった。個人が作ったサイトで1800ページというボリュームは相当なものだ。しかも萩原氏は企画マンでもあるようだ。すなわちダム見学の喜びを人と分かち合わんがために彼は、ダム祭りと称してトークライブやダム見学ツアーを企画、開催する。


そうした活動がネット上で配信されるとどうなるか。それがまた、誰かの目にふれるのである。その結果、萩原氏を監修者に迎えてダムを撮影したDVD『ザ・ダム(これまたなんというストレートなネーミングだ!)が発売される。萩原氏が取り貯めた画像も写真集となって発売される。これらがいずれも数千部売れているという。ダムマニアは自分の趣味がお金になったのだ。


かと思えば今朝の日本経済新聞には「窓マニア」の寄稿エッセーが掲載されていた。窓マニアとは何か。なぜか建築物の窓だけにどうしようもなく魅かれてしまう方のことである。彼の関心はとにかく窓だけに集中する。あまりに窓だけに気を取られるがために、窓の写真は押さえても建物全体のカットは撮り忘れることがあるという。


この窓マニアが撮り貯めた写真も数千点に上るといい、そこに目を付けられて『窓の写真展』が開かれた。これは一体何が起こっているのだろうか。


表面化されていないから推測するしかないのだが、おそらくすべての人はたいてい、生まれながらにして何かのマニアなのではないだろうか。何のマニアになるのか、それは神のみぞ知る。ともかく人は長ずるに何かに特別関心を持つようになる。そして、情報化時代の恩恵を受けて、その対象が爆発的に広がってきているのだ。自分が何のマニアであるかは、アイデンティティを構成する重要な要素の一つなのかもしれない。「蓼食う虫も好き好き」という。どんな対象に心惹かれるかを自分でコントロールすることなどはできないのだろう。人はある瞬間、あるものに対する決定的なマニアになるのだ。


とまあマニアの形成過程がそうだとして、ネット社会はこうしたマニアにマニアとして生きる術を開いたのではないだろうか。決定的な役割を果たすことになったメディアがブログであり、ツールがケータイあるいはデジカメである。


とりあえずブログを使えば、自分がマニアっているネタについて、知りうる限りのことを発信できる。対象がニッチであればあるほど、そのマニアブログは希少価値を持つことになるだろう。ここから先が微妙なところなのだが、テーマによってはそこにビジネスチャンスが転がっている可能性がある。たとえば『ザ・ダム』のように。


もちろんマニアックな知識で巨額の財を成すことができるのは、よほどの幸運にも恵まれないと難しいだろうが、それでもブログなかりし時代にはまったく存在しなかったチャンスが今はある。


ダムマニアや窓マニアがいるのなら、橋マニアや手すりマニアがいたっておかしくはないだろう。あるいは階段マニアとかエスカレーターマニアなんて人たちがもしかして存在するなら、彼らが持っている情報は、たとえば身体障害を抱えた方たちにとっては貴重な情報となる可能性もありうる。とにかくありとあらゆるモノがマニアの対象となっていい。そしてあらゆるマニアが、極めればビジネスの可能性をもつ。


これからのキャリアパスには「マニアという生き方」があってもいい時代になったのかもしれない。


昨日のI/O

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