出世したくないのはなぜ?


出世したい人8%


財団法人「日本青少年研究所」が日米韓中の高校生を対象に、意欲調査を行った(→ http://www1.odn.ne.jp/youth-study/reserch/2007/gaiyo2.pdf)。その結果、「偉くなりたいか」という問いに対して「強くそう思う」と答えた高校生の割合が、日本8%、米国23%、中国34%、韓国23%となった。


これは由々しき問題だ、などと騒ぐつもりはないが、こうした差が出てしまう背景についてはとても興味があるし、彼らが社会に出る頃に日本がどうなるのかについては強い関心がある。そもそも偉くなりたいと強く思う高校生が少ないのは、なぜだろうか。


普通に考えれば、偉くなってもメリットがないと考えているか、あるいは偉くならなくてもデメリットがないと考えているかのどちらかだろう。もしかすると、偉くなる、ならないでどんなメリット、デメリットが起こるかを日本の高校生がまったく想像できていない可能性もあるけれど・・・。


仮に偉くなってもメリットがないと考えているとすれば、それはなぜだろうか。偉くなるためには、何かを犠牲にしてがんばらなければならない。ということは自分の好きなように好きなことだけをしているわけにはいかない。それで何が得られるのだろうか。お金、名誉、地位? そんなの普通にあるし、今のように好きなように暮らしていければそれでいいじゃん。といった思考回路が働いているのではないか。


逆に偉くなんかならなくったってデメリットは何もないと考えているとすれば、どんな思考パターンがその背景にあるのだろうか。ここは素直に普通にしていれば、そこそこ好きなように、どちらかといえば気ままに生きていけんじゃん、といった感覚があるように思う。まさか明日からごはんが食べられなくなったり、テレビを見れなくなるわけじゃないしぃ、といったところだろうか。


ちなみにこの調査では高校生の生活意識についても尋ねている。その結果は次のようになっている。

日本:「暮らしていける収入があればのんびりと暮らしていきたい」
米国:「一生に何回かはデカイことに挑戦してみたい」
中国:「やりたいことにいくら困難があっても挑戦してみたい」
韓国:「大きい組織の中で自分の力を発揮したい」


また心情については

「よく疲れていると思う」日本50.0%、米国38.2%、中国31.8%、韓国37.0%


もちろん、この調査結果が日本の高校生の平均像を示しているとは思わないが(そもそも平均像なんてものには、それほど意味はないとも思うが)、少し危険な兆候が出ているようだといささか危惧する。


「暮らしていける収入があれば」のんびりと暮らしていきたい。高校生にしてなぜ、そんなことを思うのか。この答は日本の半数の高校生が「よく疲れていると思う」と答えていることと表裏一体ではないか。では、どうして日本の高校生だけが、そんなに疲れてしまっているのか。


そもそも彼らは偉くなりたいとは思っていないのである。だから必死になって勉強しようとか、あるいはスポーツで人より抜きん出ようなどともしていないのである。何もがんばっていない、それなのに、すでに疲れてしまっている。


勝手な想像なので外れていることを祈りつつ書くなら、日本の高校生は根本的なバイタリティが低下しているのではないか。バイタリティ(活力、生命力といった意味ですね、本来は)などを発揮しなくとも生きていけるのなら、そうした能力が退化するのは進化論的に正しいわけだ。したがってあまりにも恵まれている日本の高校生は著しくバイタリティが低下しており、そのために何もがんばっていないのに疲れてしまっている。


仮にそうだとしたら、それは日本が豊かになったことと密接に関係しているだろう。国が全体として豊かになるとはどういうことか。必死になって働かなくとも、普通に、人並みにしていれば食べてはいけるし、冷暖房にテレビもクルマもあって、おいしいものもそこそこに食べることができて、しかも24時間自由気ままに生きていけるということだ。


しかし、である。ここで少し考えてみたいのが、こんなことが普通にできている国が、世界のどこにあるかということ。世界中のどこを探しても日本のようなぬるい国はないだろう。ヨーロッパはどうか。すべての国がそうだとは思わないけれども、依然として厳然たる階級社会であり、そうした社会ではアップライズのための努力をしなければ「日本的普通に快適に」暮らしていくことはできない。アメリカも同じ。中国や韓国も同じだろう。日本が格差社会だなどと騒いでいるけれども、格差という意味では中国の方が上位と下位の差は日本の数百倍はある。


逆にいえば、たとえば中国などではがんばって偉くなれれば、めちゃめちゃ良い生活をできる可能性が高いわけだ。当然、そうした環境ではバイタリティは活性化される。


では、この先に何が待っているのか。


バイタリティが活性化された米中韓の高校生と、バイタリティが衰えた日本の高校生が、たとえば25歳ぐらいになったときにどうなるのかを考えてみれば良い。労働の主な担い手が、低バイタリティ(故に学習能力に欠け、基本的な知識なども低く、技能もない)な若者となってしまった日本が、相変わらず今のように普通に暮らしていけるのかどうか。国力はいろんな物差しで測られるべきだから一概にはいえないけれども、資源や食料の購買力について日本が今のレベルをいつまで維持できるのか。子を持つ親としては、ここがもっとも気になるところだ。


昨日のI/O

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『プロフィットゾーン経営戦略/エイドリアン・J・スライウォッキー』
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