高校野球問題とマスコミの責任


376校、合計7971人


野球特待制度問題である。もちろん各メディアが各様に問題の深層をえぐらんとばかりに報道している。まず事実報道を掲載し、さらには識者から「論点」として意見を求め(毎日新聞)、さらには取材班を作って「問題の発端となった高校野球の実態を追う(毎日新聞5月4日)」そうだ。


朝日新聞も流し読みしただけだから詳しくは知らない。読売新聞はサイトを見ただけだから、もしかしたら本紙のどこかには書かれていたのかもしれない。が、とりあえずざっと見た限りでは、高校野球問題に関してのマスコミの責任を問う主張はどこにもなかった。


恐ろしいことだと思う。何が恐ろしいかと言えば『マスコミの自浄能力のなさ』がである。


今回の問題にはいろんな要素が絡んでいる。だから一義的に何が悪いとか問題はここにあると言い切ることは難しいだろう。しかし、まず間違いなく要因の一つとして挙げていいのが、マスコミの報道ではないか。


高校野球がなぜ特別扱いされるのか。マスコミが総力を挙げて報道するからだ。なぜ、高校が他府県の有力中学生を金にあかせて引っ張ってくるのか。野球で強くなり、甲子園に出ることができれば、何よりも強力な宣伝効果があるからだ。


たとえば甲子園に出場した高校をNHKはどのように扱っているか。全高校にわざわざ取材に出向き、地域の人たちから話を聞き、OBを放送席に招く。明らかに特別扱いである。広告代理店的発想から言えば「甲子園に出ることができれば、それだけで広告露出効果としては数億円換算の効果がありますよ。それを思えば生徒獲得に数千万使っても十分に元が取れます」なんてことになる。


バレーも卓球も、その他のいろんな高校スポーツも、同じように全国大会はある。サッカーこそ最近のブームを反映してそこそこには扱いが大きくなってきているけれど、それでも予選の第一試合から決勝戦までのすべてを、丸々一日中放送している高校スポーツは野球のほかには一つもない。


マスコミがそこまで取り上げるからこそ、高校野球は特別扱いされるのだ。こういう言い方をすると、マスコミサイドとしては(特にNHKなどは)「国民の皆さまの関心があるから、高校野球を放送しているのです」などと答えるのだろう。が、少なくともNHK高校野球全試合放送の是非について視聴者アンケートをとったという話は寡聞にして知らない。もし、調査をしているというのなら、その結果をぜひ教えてほしい。


さらに不思議なのは(というか、これこそがマスコミの自浄能力のなさを決定的に示している事実だと思うのだけれど)、高校野球利権にむらがっているマスコミ3社(NHK朝日新聞毎日新聞)の責任を、ほかのマスコミがまったく追求しないことだ。


だからわざわざ読売新聞をみにいったのだけれど、何も書いていなかった。これこそ読売からすれば、他紙を叩く格好のネタじゃないんだろうか。にも関わらず叩くことができないのは、それなりの理由が何かあるのだろう。マスコミ村の掟破りはできない、ということなのかもしれない。


毎日新聞に戻ると、今日(5月4日)の朝刊「論点」で三人の有識者のコメントを掲載している。高野連会長、プロ野球経営評論家、そしてスポーツライター玉木正之氏である。その中でもっともおもしろいなと思わせる意見を述べていたのが、玉木氏だ。玉木氏は今回の問題の根っこは、高校野球が「スポーツ興行」化していることにあると論破している。その通りだと思う。


そして玉木氏の提言の中で目を引く意見だと思ったのが、次のひと言。

解決策はただ一つ。教育機関でのスポーツ興行を廃止し、メディアによる興行化も廃止し、将来的に若者たちが野球を行なう場としての地域クラブの創設と整備を開始すること。手始めにNHKによる高校野球の全国中継の廃止あたりから始めてはどうか
毎日新聞5月4日・朝刊)


ついでにいえば朝日、毎日両新聞による特別扱い報道も廃止すればいい。そもそも興行化しているということは、それにより収益を得ている組織、人間がいるということだ。春と夏の甲子園で入る入場料収入、テレビ放映権料などがどこに流れて、どう使われているのか。ここを追求しているマスコミもないなあ。どうしてなんだろう。


高校野球をめぐる利権の構造は、何も私立学校、プロ野球、リトルリーグ、有力中学校に保護者たちだけが絡んでいる話ではない。高野連も、マスコミも絡んでいると思う。そこを追求するマスコミはないのだろうか。



昨日のI/O ※連休中ということで

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