社保庁的体質


一日のキータッチは5000タッチ以下とする


何かと問題の社会保険庁労働組合のお達しらしい。素晴らしい! それ以上の仕事をしてはいけないのである、社保庁では。羨ましい! 5000タッチというと文字数にすれば、単純計算で2500文字になる。原稿用紙にして6枚ちょっと。毎日それだけのキータッチで毎月きちんきちんとお給料がいただける。ボーナスだってがっちりもらえる。もちろん年金は間違いなく受けとれる。


公務員の仕事ぶりについては、どうにも合点がいかぬことが多々あった。父親が労働基準監督官であり、こちとらは中小企業印刷ブローカーから零細デザイン事務所と渡り歩き、遂には商法上の個人商店となってしまったがために、基本的な労働観が親子でまったく噛み合わないのだ。


しかし、おかげでわかったことがある。とりあえず労働には二種類あるということだ。公務員さんの労働とは、自分の時間を提供することである。すなわち時間を提供したことが評価基準となるのだから、その時間で行なうことのクォリティについてとやかくはいわれない。原理的に試験に通った人しか公務員にはなれないのだから、合格した時点で一定のクォリティは担保されているということなのだろう。


しかも年月を重ねるにつれて、そのクォリティは誰でも一様に自然に高まるものと見なされる。だから歳を取るほど給料は高くなる。クォリティについて厳しく審査されない環境にいるがために、どうしても安きに流れ、時間が経過していくとどんどんクォリティが低下する、なんてリスクはまったく考えに無い。なぜなら、そもそも試験に通った人だけが公務員になっているのだから、選ばれた人(選良なんて言葉がありましたな)に間違いはないのである。うらやましきかな、公務員の世界である。


さて、労働にはもう一種類ある。こちらは誰かに何らかの価値を提供して、その対価を受け取るタイプの労働である。このタイプの労働では基本的に時間はまったく評価基準とはならない。


たとえば原稿を書く仕事。ある編集プロダクションから「これこれのテーマについて、これぐらいの長さの原稿を書いてください、締切は一週間後、ギャラはこれぐらいで」というオファーがあったとする。この原稿を30分で書き上げようと、ほぼ一週間毎日睡眠時間3時間ぐらいかけて必死の思いで書こうと、ギャラが変わることはない。


なぜなら仕事が発注/受注された時点で、成果物(=価値ですね)とそれに対する報酬(=対価ですね)が決まっているから。そりゃ、睡眠時間を削りに削って書き上げた原稿があまりにも素晴らしくて、これはもう少しギャラを上げた方がいいのではないか、と担当さんが思ってくれたとしても、そうした意見が先方内部での稟議をクリアすることはまずない。


かといって仕事を受けて、たまたま持ちネタでさらさらっと30分で書けたしまったからといって「そんなに簡単だったのなら、じゃあギャラも半分でいいよね」ということにもならない。これが価値と対価の交換型労働である。


私がデザイン事務所でコピーライター見習いのようなことをしていたとき、あまりにも毎晩帰りが遅くなるので父親が残業代をもらえ、といってきたことがある。労働基準監督官様に反論するのもいかがなものかと思ったので「そうやなあ」ぐらいに受け流してはいたが、心の中では「それは、あり得へんねんで、この世界では」とつぶやいていた。


だって、そうでしょう。コピーを書けないのは、自分に能力がないからなんだもん。それで残業代をちょうだい、なんて厚かまし過ぎてよう言わんわ。逆に考えれば、それじゃあできる人は定時までに作業を終えるから給料が少なくて、できない人は残業するから給料が多いってことになってしまう。そんなのおかしい。


でも、世の中にはいろんな考え方の職場があるようだ。とりあえずキータッチの回数を制限しているような仕事場あるとは想像もしなかった。そりゃ確かにキーボードを打ちすぎると腱鞘炎になるかもしれないし、肩も凝れば、目だって悪くなるだろう。仕事をすることで、そういう健康被害に合うことは許されないというのが社会保険庁の基本的な考え方というわけだ。


だから、みんなから預かったお金の記録を無くしたり、払うべき年金をきちんと払わなかったり、あるいは莫大な年金を無駄遣いしていろんな施設を作ってはタダ同然で放棄する、なんてことをしても誰も責任を取らずに済むわけだ。だって、決められた以上の仕事をしちゃ、いけないんだから。いい職場があるものだ。


ただし誤解されないように付け加えておくと、知り合いの国交省の方などは社保庁とは正反対のハードな日々を送っておられる。「20代の頃は家に帰れるのが水曜の朝と土曜の朝だけ。それを思えば今は遅くとも毎日1時までには、家に帰れるのだから楽なものですよ」と。だからといって国交省社保庁で給料に差はない(もしかしたら社保庁の方が上かもしれない)のだろうから、お役人の世界とはげに不思議なところである。




In:
Out:
キダタロー氏インタビュー記事
大阪天満宮寺井宮司インタビュー記事


昨日の稽古:富雄中学校体育館

・準備体操
・補強運動(腕立て、腹筋、ジャンプ)
・基本稽古
・ミット稽古(回し蹴りあれこれ)
・壁を背にした受けの稽古
・組手稽古